魔導具
その頃
ーーー王宮内ーーー
「ジャンダル騎士団長より謁見の申し出がありました!」
歳若い兵士の声にレオンハルト国王陛下と宰相のシャルトは顔を見合わせる。
「構わん、通せ」
「ジャンダル団長が謁見の申し出とは…これはまた珍しい」
歳若い国王と好々爺とした宰相が不思議そうな顔をするのも仕方ない。
何故なら国王と団長は乳兄弟という関係であったのだ。
子供の頃から2人はとても仲が良く、仕事柄もありよく国王の執務室には訪問していたからだ。
それをワザワザ謁見の申し出となると、2人は何かあったのだと当たりをつける。
「失礼致します。ジャンダルです」
そう言いながら入ってきたジャンダルを見ながら国王が答える。
「謁見とは珍しい。何かあったのか?」
ジャンダルは気まずそうにしながらも口を開く。
「先日お話した異国の少女の事でお願いがございまして…」
「願い?お前が?……雪でも降るのか………?」
春の陽射しが眩しい空を窓から見上げてレオンハルトは言った。
だがその姿を見たジャンダルの眼差しが少し細められる。
「レオン…真面目に話してるんだが?」
いつもの口調に戻ったジャンダルにレオンはニヤッと笑う。
「はいはい!黒髪の少女の事だろう?何かあったのか?」
「牢に入れて1週間たったんだが、意志の疎通が全く出来なくてな…。見た所純真そうな娘だしこれ以上拘束するのも可哀相なのだが…」
「まぁ仕方ないだろう。国を守る立場としては不審人物を野放しには出来んからな…」
レオンハルトは溜息をつきながら思案する。
「そこで!レオンに頼みがある!」
急に大きな声を出すジャンダルにレオンハルトは引き気味だ。
「な、なんだ…?」
「魔導具を貸して欲しい!」
「「……………は?」」
レオンハルトとシャルトの声がものの見事にダブった。
「ジャンダル様…魔導具というと…」
「………腕輪の事か……?」
ジャンダルが深く頷いた。
「意志の疎通が出来ない事もだが、この国に伝わる伝説も気になってな…」
それは500年程前、この国に異世界の少女が降臨した…という伝説であった。
黒髪黒目の美しい少女は精霊に愛された愛し子でもあった。
生涯をこの国で過ごし、子孫も遺したと伝説にはあったが、生まれた子供は皆黒髪では無かったとの事だ。
その少女はこの国に繁栄をもたらし、姫巫女として戦のない平和な世を作りだした。
その少女の遺言が今も王家には伝わっていた。
「もし異世界からの渡り人が現れた場合は王家が面倒をみて欲しい」
といったものだったが…
「本当にその姫巫女がいたのかすら信じられないんだが?」
レオンハルトの言葉にジャンダルは眉をひそめる。
「だが本当に姫巫女が存在していたと言うのなら遺言に従わないといけないだろう?」
「……確かに姫巫女の子孫という方々にはお会いした事もありませんが、それだけで全くのデタラメだと判断するのは時期早々といった所ですかな?」
シャルトの言葉にジャンダルは頷きながら言葉を重ねる。
「だからこそ確かめる為に魔導具を貸して欲しいんだ」
「……それで謁見の申し出か…」
「公式な資料が残る方が後々の事を思うと良いと思ったからな…」
辺りに静けさが訪れる。
レオンハルトの考えを妨げないように2人は黙り込む。
「…………わかった。…だが腕輪は国宝だからな…とりあえず一日だけの貸出にしよう。
もし本当に異世界からの渡り人ならばその限りでは無いが。」
僅かな期待とともにそう答える。
(まぁ渡り人であるならば遺言が無くても保護しなくてはいけないのだが…)
渡り人とこの世界には知識の差があると伝説にはあったのだ。
その為に渡り人を自国に招こうと醜い争いが巻き起こったとあった。
姫巫女の創り出す様々な物が文明を数百年勧めたと言われた程だ。
その恩恵を1番受けたのがこの国だと文献には残っていた。
魔導具とよばれる腕輪も姫巫女作だと言われてはいるのだが…
「まぁお前の好きにするといいさ。」
レオンハルトの言葉はジャンダルを心から信頼している…という言葉でもあった。