1.帰還
今、このセントラル半島で半島全てを巻き込んで三年前から戦争が起こっている。
どうしてそんなことになったのかはわからない。だが、どこかの国が領土を広げようとして起こした戦争が、結局半島全てを巻き込むことになった、というのを聞いたことがあるが実際のところは何もわからない。だが、それでもいいと思う。結局のところ戦争は始まっているのだ。今更理由を知ったところでなにも変わらない。
そして、ぼくが気になっているのは、戦争はいつ終わるのか、ということだ。
戦争が始まって三年ほどがたっているのにも関わらず戦争は終わる気配を見せない。
一三九年前に起きた第一次セントラル戦争では、一年ほどで戦争が終わった。
世界で一番長かった戦争を見ても二年半。
今回は三年と、とても長い。
どうしてこんなに戦争を続けるのだろう。そう思うことが何度もある。
ぼくは兵士という職に就いておきながら戦争は反対派だ。
だったらなぜこの戦争の兵士になっているのか、という疑問がわいてくるのだが、それは国から赤紙というものが送られてきたからだ。
赤紙、というのは昔、世界戦争が起こったときに遥か遠い東の国で使われていたものだ。
赤紙に書いてある内容は簡潔に言うと、兵士になって戦え、というものだ。
そしてこの内容に逆らうと殺される。死刑だ。
ぼくのもとにも赤紙が来てしまったのでぼくも行かざるをえなくなったのだ。
一番最初、ぼくがここ、アトラスの兵士として戦場に立ったとき、ぼくは震えっぱなしだった。
どうしてもどこからか殺されるのではないか、という思いが頭のなかにずっと残っていて、結局その日はろくに眠れもしなかった。
ぼくが兵士になって一週間が過ぎた頃だった。
ぼくは先輩に連れられて、前線まで連れていかされた。
そして、先輩は無人の民家に勝手にあがりこんで屋上まででた。
その建物は三階立てで屋上には隠れることができるような壁もあった。
そしてぼくはその先輩からその場でスナイパーライフルを渡されてこう言われた。
「お前が殺せ」
ぼくは抵抗した。自分にはそんなことはできないと言った。
でも先輩は後ろから銃をつきつけてぼくにこう言ってきた。
「殺さなければお前を殺すぞ」
ぼくは脅されて仕方なくライフルをかまえた。
そしてスコープを覗いた。
だが、敵はなかなか見つからない。
すると、先輩が、あの建物の陰にいる、と言ったのでぼくはそこを見た。
すると400メートルほど先に二人の兵士が隠れていた。
ぼくは二人を見つけるとライフルの標準を敵兵の頭に合わせて引き金を引いた。
ライフルから放たれた秒速約1000メートルの弾丸は僅か0.4秒で敵兵の頭を弾き飛ばした。
敵兵の隣にいた兵士は急いで銃をかまえてぼくたちを探していたが400メートルも離れているのた。
見つかるはずがない。
そして、ぼくはもう一人の方も撃った。
だが、敵兵が動いていたためか狙いがずれてしまい敵兵の腕にあたった。
敵兵はその場にうずくまった。
そりゃそうだ。秒速1000メートルの硬い弾丸を喰らってそのまま平然としているほうがおかしい。
ぼくはもう一度引き金を引いた。
今度は狙いどおりに頭を撃つことができた。
敵兵は一瞬体が、ビクンッと動いたがすぐに動かなくなった。
それを見ていた先輩はよくやった、と褒めてくれた。
だが、これは褒められて嬉しいことではない。
先輩はそれじゃあ帰るか、と言い屋上から下へと降りようとした、そのときだった。
遠くから銃声が響き、次の瞬間には先輩は倒れていて動いていなかった。
敵に撃たれたのだ。
ぼくは静かにばれないように屋上から降りた。幸いなことにその間に撃たれることはなかった。
ぼくは二階へと降りると窓から少しだけ顔をだし敵兵を探した。
……見つけた。
敵は少し高いビルの一室からスコープを覗いていた。
まだ、ぼくの存在には気づいていないようなのでぼくは遠慮なく引き金を引いた。
それから敵は動かなくなった。
今日、三人も人を殺した。
自分が怖かった。
最初は嫌だったのに、人を殺す度に誰かの命を奪うことに抵抗がなくなっていく自分に。
その日、ぼくは一人で拠点へと帰った。
帰ったのは夜になった。
ぼくが帰るとみんなが迎えてくれた。
よく帰ってきてくれた、心配してたんだぞ、とか、この馬鹿!って叫んで泣きながらぼくのもとへと来たやつもいた。
そんな中、誰かがあいつも一緒に行ってたんじゃないの?と聞いてきたやつがいた。
だから、ぼくはみんなに今日起こったことをつたえた。
敵兵を最初に二人殺したこと、先輩が帰ろうとしたとき敵に狙撃されて死んだこと、ぼくはなんとかその敵兵を殺したこと、ぼくは全部を話した。
ぼくが話し終えたときには誰も何も言わなかった。
仲間が一人死んだのだ。
悲しまないやつはいないだろう。
そんななか仲間がぼくにフィートに報告してきな、と言った。
フィートはこの辺りを任せられている隊長だ。
ぼくはフィートのいる場所へと足を運んだ。
そしてフィートに今日起こったことを報告した。
すると、フィートはそうか、と一人頷き、ぼくに言った。
「レオン、殺されたあいつはこの場所の副隊長だったことはわかっているな?で、あいつが死んだことによってこちらとしてはすぐに副隊長が欲しいところなのだが、所詮ここは新人兵士の集まりだ。副隊長になれるやつはいないと思っている。君以外はね」
「……ようするにぼくに副隊長になれと、そういうことですか?」
多分言ってることはそういうことだろう。
「さすが、話しを理解してくれて嬉しいよ。で、どうする?君が副隊長になるかい?」
「……わかりました。副隊長になりましょう」
本当はあまりやる気がないのだが、フィートのことだ。どんな手を使ってでもぼくを副隊長にしていただろう。
そしてぼくはこの辺りの副隊長となった。
それから三ヶ月がたった頃にはぼくはフィートに完全に認められた。
そして、フィートがある会議でぼくを小隊長に推薦し、ぼくは十九部隊の隊長となった。
そして、今。ぼくはフィートの部屋の前にいる。
フィートもあの後出世した。
そして、結局ぼくとフィートとの関係は変わらなかった。
ぼくは扉をノックして入った。
「第十九部隊、ただいま戻りました」
「おお~レオン君、久しぶりだね。まあ、そこに座りなさい。コーヒーを用意するよ」
そう言ってフィートはコーヒーを用意し始めた。
ぼくも対面式のソファーに腰を下ろした。
なんか、久しぶりにくつろいでる気がする。
ぼくが戦いの疲れを癒しているとフィートがコーヒーを持ってやってきた。
フィートは反対側のソファーに座った。
「いや~久しぶりだね、レオン君。やられたんじゃないかって思ったりしてたんだよ~」
「……そんなこと考えないでくださいよ」
「いいじゃないか。それよりどうだった?今回の任務は?」
「まあ、成功しました」
ぼくたちの今回の任務は敵の食料の補給ラインを絶つ、というものだ。
簡単に言えば、敵に食料を送ってるやつを倒す仕事だ。
本来なら他の部隊の仕事なのだが人手が足りなかったらしく、暇だったぼくたちの部隊も任務に参加したのだ。
そして、今は人手が足りているのでぼくたちは帰ってきた、というわけだ。
それからぼくはフィートに任務の結果を詳しく伝えた。
「ふぅ~ん、だいたいはわかったよ。君たちはよくやってくれた、感謝してるよ」
「いえ、ぼくたちはただ任務を遂行しただけですので」
「素直に喜びなよ、レオン君」
そう言われたが素直に喜ぶなんてできない。
ぼくは少し冷たくなったコーヒーを飲み干すと席をたった。
「それではぼくは自分の部屋に戻ります」
ぼくは扉を開けて帰ろうとした。
しかし、フィートに止められた。
「ちょっと、明日もここに来てもらえるかな?すこし話しがあるんだ」
「わかりました。では、明日もここに来ます」
そう言ってぼくは部屋をでた。
明日の話しとはなんだろう。
少し考えてみるも心当たりは何もない。
まあ、いいや。今日はもう遅い。
早く帰って寝ようっと。
戦争ダメ、絶対。
どうも夜です。
『オリジナル小説投稿館』というところで掲載しているものです。