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おまけ話 ―ある日の朝―

上げたつもりで上げていなかったエリクの後日談。


 今日は朝番なのに、やってしまったぁ!!

 ずぅんっと、自分の気持が落ちるのが分かる。

「エリク、しょげてる暇があったら早く支度たらどうですか?」

 小さなキッチンの向こう側から、「何度も声を掛けたんですよ」と父さんが呟く声が聞こえた。

「あうぅ……」

 そして、そのキッチンから間違いなく自分ひとりの分だけの朝食を用意しているいい音と匂いがボクの鼻をくすぐる。

 顔を洗って、そのまま濡れた手で空を向く自分の栗毛を恨めしく撫で付けて、タオルで乱暴に顔を拭く。

「朝食は諦めて、向こうで食べてくださいね。イルドたちに食べられていなければ、ですけどね」

「うぁうぅ~~……」

「……赤ん坊ですか、あなたは?」

 やっぱり、洗面所を出て最初に見えたのは、自分の朝食だけをきちんとテーブルの上に置く姿。

 寝坊したボクが悪いのはわかってるけど、これ見よがしに料理を始める父さんが憎いです、はい。

「もう、テドさんのいぢわるー! いってきまーす!」

 こうなったら、一刻も早く夜勤の先輩たちを押し止め朝ごはんを食べる時間をもらわねばっ!

 いつもの着なれた青い制服の上着とカバンを引っ掛けるように、仕事場へ駆けて行く。

「意地悪といわれても、困るんだけどなぁ」

 もう既に、外に出ていたボクには届かなかった一言。

 まだ、ぎこちなさがあるのは仕方が無い……よね? 家族になってまだ一年も経ってないし。

 走りながら転送機を使えないボクの唯一の移動手段は都内馬車。

 基本的に数が少ない馬車、停留所は遠くないけど止まっていた馬車がガラガラと音を立て始めてさらに走る。

「ちょ、まってくださーーい!」

 声を上げたのが功を奏したのか、御者のおじさんがバックミラーを動かす手が見えた。

 速度が僅かに緩むと、ワゴンに飛びついた。

 肩で荒い息を整えながら周りを見るが、よかった、ボク一人だ。

 流石に、同乗者がいたら凄く恥ずかしい。

 そして、降りるべき停留所は乗った停留所から二つ行ったところ。近いんだけど、人力で走るのと馬力で走る速度を考えていただきたい。

 そんなわけで、新しい家から大分通い慣れてきた道に着くと、おじさんに一言謝ってから、料金を支払った。

 苦笑いを浮かべたおじさんは、そのまま頑張れよと言ってまた手綱を振った。

 停留所からすぐにある細い道をまた走って、走って、走って!

「うぉっそいぞ! エリク!!」

 やっぱり、ダメでした。

 一番、ボクを(色んな意味で)可愛がってくれてるイルド先輩が仁王立ちで詰所の前に立っていた。

「すみません、遅くなりました!」

 目の前についてから頭を下げると、先輩の大きな手が垂直に落ちてきた。

 眠さと相まって加減なんてないから、凄く痛い。

「もう、団長も来てるんだから早く入れ」

 一撃、それで満足してくれたようで、大きなアクビをしながら先に中へと入っていった。

「おはようございます、エルク。後はお願いしますね」

 入れ違いで出てきたのはアーヴァン先輩。本当なら、ボクと入れ替わりでもう少し早く帰れたはずなのに、ごめんなさい。

「おはようございます、ごめんなさい」

「気にしてませんよ。あの二人の遅刻の方がよほど目に余りますからね」

 そう笑って先輩はそのまま、帰路に着いた。

 狭い詰所の中、イルド先輩はそのまま帰るのを面倒くさがって奥の仮眠室へと入って行き、対して同じく朝番の団長は笑いながら奥さんの作ったお弁当を朝食にしながら、軽く手を上げてきた。

「お前、オレより遅い出勤とは良い度胸してるなあ」

「ご、ごめんなさい。目覚ましが壊れてたようでぇ――」

「んや、目覚ましが鳴っても起きてこないから再三、声を掛けたのに寝ていましたよ。とはテドからの伝言だ」

「……あい、ごめんなさい」

 父さんに先手を打たれ、またしょんぼりと頭を下げるしかなくて、でも何時までもそうしてるわけにも行かないから、仮眠室に荷物を置いて備え付けの鏡で服を直す。

 やっぱり、寝癖は水だけじゃ直らないですよね。

 でも、諦めきれずにもう一度水で撫でつけ、次いでに夜勤用の食料備蓄が入っている棚をあさる。

 カップラーメンゲット!

「団長、これ貰っていいですか?」

 一応、断りを入れるフリをしながら先にもうビニルを破ってるのは気のせいです。

「ついでにコーヒー頼むわ」

「はぁい」

 ポットのお湯を確認したら足りないから、コンロでお湯を沸かしてコーヒーの準備を始める。

 コーヒーメーカーにフィルタをちゃんと付けて、ん? なんか上手くはまってないけど……まあ、ろ過するだけだし気にしない。

 粉はコーヒー一杯に、粉山盛り……二杯だっけ? 溶かすインスタント万歳、どうしてウチの自警団は溶かすインスタントじゃないのでしょうか。教えてください父さん。

 まあ、ともかく適当でいいや♪

 バッサバッサ音が少し立つけど気にしない気にしない。飲むのはどうせ団長だし、あまったら先輩が飲むよねきっと☆

 あとは、コーヒーメーカーにお湯を入れて後は機械任せ。その間に時間の来たラーメンを頂きます。

「そういや、お前の更新手続きしねぇとな」

「はふ?」

「契約更新の手続きだよ。お前、あいつらみたいに協会に入りたいんだろ? ハンター登録で契約出してやるつもりだけど、どうする?」

 まさかの願ってもない団長からの言葉。ボクは体質上、首都の外でに出ることがあまり出来ない。出るには面倒な手続きが必要になるんだけど、ハンターとして登録してもらえるのならその手続きも簡略化され、ハンター組合(ギルド)の仕事が請けられるようになる。もちろん、色々な制限は普通のハンターに比べて出るけど。

 それにそれに! なによりも協会員登用試験を受けることが出来る。

 ボクの夢は協会員になって色んな魔物の研究をしたい。

 一時は遠い彼方の夢物語にしかならないんだと、諦めかけてたけど、ボクの周りにいる色んな人たちのお陰で夢を繋ぐことが出来るんだ。

 目をしばたかせて、口の中に残っていた麺を飲み込んでから手を上げて大声で返事をする。

「やりますやります!」

「おう、ならアイツにはちゃんと自分で言っとけよ。それと、書類に汁飛ばすなッ」

 勢い余り過ぎて、手に持ってたおはしから飛んでいたようで、ごめんなさい。

 タオルで汚れた書面を拭き、嬉しさを全身で表したまま団長へカップいっぱいに注いだコーヒーを渡す。

「犬か、お前は?」

 今ならなといわれても気にしない、俄然、仕事やる気が出てきたぁ!

 急いで残りの麺と汁を一気にかきこみ、巡回の準備を始める。

 今日のペア相手はカイト先輩、夜勤からの続きだから今は二段ベッドの下で大イビキをかいてるはず。

「ぶはッ、エリク! お前、また豆入れすぎただろう!」

「それは気のせいです!」

 テンションが上がってる今の僕に怖いものはなく、溜息をついた団長はカップを流し台の上でひっくり返し、残ったコーヒーにお湯を足して調節する。

「やっぱ、この話しなかった事にした方が良いかんじゃねぇのかぁ……」

「何か言いましたかぁ?」

「なんでもねぇ、早く行って来い」

 苦笑いを浮かべている団長に、ボクはハテナと首をかしげて見せたが、団長はそのまま追いやるように手を振って見せ机の上に書類を広げ始めていた。

「カイトせんぱーーいっ、巡回の時間ですよー! おきてくださーい!」

「……うっさい、この遅刻魔が!」

 ゴッ……と上から鉄拳が落ちてきました。寝起きが悪いイルド先輩を気にして同じく寝起きの悪いカイト先輩を起こせるとは思いません。

 実力行使!

 タオルを引っぺがして、安全な場所から長い棒でカイト先輩をつっつく。ちなみに、この棒はアーヴァン先輩からのプレゼント。

 曰く、「カイトを安全に起こすために必要でしょうから、使ってください」とのことでした。

 理由なんてもう、簡単すぎて初めて見たときは血の気が引いたけど、もう慣れたし。

「ん、うるさいっすねぇ」

 つんつん突っつくボクの持っている棒を軽く手で払いのける、わけではなくそのまま左手の返し手で棒を掴み、右拳で粉砕にかかる。流石、拳闘士。

 しかし、この棒見た目に反して以外と柔らかい。へにょんと曲がってボクの手から抜けるとそのまま天板にぶつかり先輩の上に落ちる。

「うわっ、つめたっ!」

 成功させるための角度、最近はばっちり覚えた。

 頬に当ったその棒は水を湛える柔らかく不思議な目覚まし棒。子供用の玩具でも使いようなんだなぁと思いながら、それを買ってきたアーヴァン先輩が何処で仕入れたのかがちょっと気になった。

「先輩、巡回の時間ですよ、いきましょー」

「おうっす。準備するから先に待っててくれっす」

 カイト先輩のいいところは、寝起きは悪いけど、体を起こせばすぐに次の行動へ移ってくれることに尽きる。


 あの事件の爪あとはまだ所々に残って入るけど、それでもボクは頑張ってます。

 じぃちゃん、今度また父さんとお菓子でも持って見舞いに行くからね。


今日も今日とて、青空一杯の良い一日です!

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