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34.繋がり始める未知-1-


逃げるって判断下せるのが、一番厄介なんだよ。

「シオンさん、ごめん……見失った」

 携帯電話を片手に朧がシオンへ報告をしている間、セオも同じように情報管理部からブラックボアホンの目撃情報を洗っていた。

『しかたあるまい。一度戻れと言いたいが、こちらもハンター達の行動を制限するだけで手一杯になっておる。お主らも連中への抑止は忘れるな。それと、クロウから先ほど連絡を受けた。絶対にイングワズ区へ獣を送るでないぞ』

「それは重々承知だって。それじゃ、また後で連絡入れるよ」

『ああ……朧、あまり無理はするでないぞ』

 シオンとの連絡を終えた朧は、ブラックボアホンとの予期せぬ戦闘に危うく忘れかけそうになっていたメモを思い出し地図を引っ張り出した。

「セオ、とりあえず獣は後回しにして確認してこよう」

「え、ああ……」

 セオも携帯をしまい込むと、ゆっくりと歩き始めた朧を追いかけた。

「身体は平気なのか?」

「さんきゅ……痛てぇに決まってんじゃん。だから、途中休憩だよ……思い出させんな」

 隣に並び持ってきていた体力回復用のポーションを渡しながら訊ねると、朧は渋い顔を浮かべて見せた。

「まあ、まだマナの代償で済んだだけ大分マシだけど」

「確かにな。こんな所で結界破損の恩恵があるとは思わなかった」

「同感だねぇ……つか、アルゲス単体で効かないのが一番イタいわ」

「そうだな」

 獣への対策を話しながらも道は既に頭の中に叩き込んである朧は、途中で地図を開くこともなく進み次第に一度見たことのある風景だと辺りを見回し始めた。

「どうした?」

 相棒のそんな些細な変化も目聡(めざと)くみつけ、問いかけると既にセオの声も届いていないかのように自分の考えに没頭していた。

 何かを思い出したように朧は駆け始め、再び追いかける羽目になったセオは疑問を浮かべたまま後を着いて行くしかなかった。

 家々を走りぬけ、最後の角を曲がるとそこは袋小路だった。

 そして、朧は地図を改めて開くと同時に側にあった表札に書かれた住所を見て照らし合わせていた。

「やっぱり」

 メモにあった数字を読み解いた住所と同じ番号がそこに記されていた。

「ここは……?」

 ありふれた二階建ての小さな茶色い屋根がある家の前でセオが呟き、朧はその表情を明らかに翳らせていた。

「ラゼル・ヴィナード……エリクの爺さんの家だよ」

 煌々と明かりの点いた部屋を見据えて呟いた朧に、セオは目を丸くしていた。

「どうして、ここが……?」

「知るかよっ!」

 そう言いながら考え込んで、じっと表札を睨み付けたまま立ち止まっていた。

 ――――そうなんだよな。何のための情報なのかも分からないし、下手に手を入れて良いのか正直判断難しいよな。

 唸り声を上げながら微動だにしない朧だったが、腹を括ったように顔を上げた。

「考えても仕方無いし、砕けてみるかぁ」

「何を決めたか知らないけど、行き成り砕けるのか?」

「爺さんの協会嫌いは相当だぜ。まあ、魔物に詳しいって言ってたし協力を仰ぐだけ仰いでみるってとこ。気が変わっててくれることを祈るばかりだけど……」

 軽く言いながらも緊張した面持ちでベルを押すと、しばらくの間を持って玄関が開き二人の姿を見つけた老人がは怪訝そうな表情のまま近づいてきた。

「何か用か?」

 ラゼルは門扉の近くまで来ると、その相手が朧と気が付き足早に近づいてきた。

「協会の人間が何の用だ、帰れっ!」

 震える言葉と共に振り上げた拳を門扉に叩きつけ、そのまま踵を返してスタスタと家へと戻っていこうとしていた。

「今、暴れ回ってる黒い獣について何か知っていることがあれば教えていただきたいと、改めてお伺いに参りました」

 周りも気にせずに呼び止めるために大きく声をあげた朧に、ラゼルは扉に手を掛けたまま振り返った。

「お孫さんのエリクに聞けば、何でもヴィゼル・ラナルド博士に引きを取らぬほど魔物に造詣が深いと窺いました。どうか、少しでも宜しいのでお話を……」

 実際その様なことは無いのだが、自然と出て来ていた朧の言葉にセオは内心で溜息をついていた。

 しかし、自然と相手の一挙手一投足の行動を目で追い、憎しみが篭った視線が真直ぐに隣に立つ朧へ向けられたの見逃さず、次いで同じ視線のまま自分に向けられた。

「……ふ、はは! 何も知らぬは若造らしい……だが、儂はお主ら小僧共と話すことは何もない」

 突然笑い出したラゼルは、そのまま二人を一度たりとも見ることもなく部屋の中へ入ってしまった。

 取り残される形になった朧は些か落胆した様子でセオを振り返ると、彼は彼で先のラゼルの言葉が気に掛かったのか何かを真剣に考えていた。

「“何も知らぬは……”か、やけに含みのある言い方だったな」

「そーだな、でも悠長に考えてる暇はないな。獣探し再開するか」

 気持ちを切り替えるように、朧が促したが珍しくセオは沈黙していた。

「魔物に詳しいってだけで直接情報が回るものなのか? それに、誰が此処を知ってたんだ……?」

 考える時についぞ口に出てしまうのはセオの悪い癖でもあったが、それを聞いた朧は補足するようにエリクを連れまわしていた時の事を話した。

 そして、協会の展示室での話をするとセオはその表情を変えて詰め寄った。

「朧っ、他には! 他に何か言ってなかったかっ?」

「うぇっ! 近い近い!」

 ずいっと詰め寄られた距離の近さに、朧はセオの肩を引き剥がして「別に、なかったと思うけど」と答えていた。

「……そうだよ、まだ第一資料室しか見てなかった。朧、悪いけど少し時間くれ。見つけても無理しないで呼べよ!」

「ちょい、セオ! おーい……」

 完全にいつもと逆の立場になり一人ぽつんと取り残された朧はどうしたものかと、所在無く頭をかいていた。

「まあ、任せるか……」

 資料探しはセオの方が確実に早く的確に拾い上げてくると、結論をつければ後はブラックボアホンの行方探しに専念するだけだった。

 一度、朧は遠いがサバスたちの自警団へ情報交換のために向かう事を決め、歩き始めていた。

 そしてそれを見下ろす影はは忌々しそうに喉を鳴らし、白い背中が視界から見えなくなるのを見届けていた。



 朧はもう一度だけシオンに連絡をつけると彼女からは、「無茶はするな」と相棒と同じ言葉をもらい歩きな慣れた道を歩いていた。

 途中で殺気だって走るハンター達を見かけたが声をかけることもせず、ただ彼らの叫ぶ声に混じる情報だけを頭の中に残していた。

 ――どうやらまた、姿隠したみたいだな。

 錯綜する情報を纏め上げながら少しずつ急ぎ足になっていた。

「久遠さん!!」

 人並みの向こう側から叫ぶ声を聞き、足を止め声の主を探すとアーヴァンが走ってきていた。

「良かった。行き違いなってなくて、まだ行ってなかったんですね」

 息を切らせながら朧の前で止まると彼は幾ばくか安心したように呟いた。

「何が?」

「え、あぁ。戻りながら説明します」

 ようやく呼吸を整え姿勢を正すと自警団の方へと歩き始めた。

「協会の手伝いで少し判ったことがあったので、それを纏めてあなた方へ送るつもりだったんですが……」

 そこで一息入れると深くため息をついたアーヴァンを、朧は首をかしげながら見やると其の視線に気がつき苦笑いを浮かべた。

「カイトが余計な気を回して、先に管理部に持って行ってしまったんですよ。しかも中途半端な状態で」

「……って事は、このメモの事か?」

「えぇ、渡ってしまっていましたか……」

 朧はメモを見せるとアーヴァンは受け取ることも無く頷いた。

「今まで黒い獣たちが消えた後、微量ながらマナの送還が確認されていたんです。それで、それらの追跡資料を目にする機会があったので大まかにポイントを纏めておいたんですよ。

 あくまで推測の域を出ないことですが、消失地点となったダガス区で特別指定をされているのは三ヵ所。内一つは守護協会(エンゼラス)の寄宿舎のため除外しましたが、それ以外で事件前後にマナの活動があった痕跡が両方ともあったんです」

「其のうちの一つが、エリクの爺さんの家って事か」

「はい。ですがあの家には首都の結界を凌ぐ封殺結界が張られています。以前、エリクが配属されたときにラゼルさんに話を伺いましたが、やはりエリクの魔力蓄積体質(マナアクムール)を考慮してとの事でしたから、あの家では召喚も送還も一切受け入れられないはずです」

「守護協会の結界はあくまでマナの活動レベルを落とすだけだからな。封殺っつーには強度も足りないしなぁ」

「ですが、私たちには十分な効力でしたよ」

 小さく笑って見せたアーヴァンに朧は小さく頷き返し、続きを促した。

「それで、もう一つの地点は転送機が設置されている自治会館でした。本当はそこを調べてからお渡しする予定だったんですが……」

「なるほど。んで、それ以外の場所では何も無いの?」

 問いかけにアーヴァンは肩を落として見せた。

「……残念ながら何も。それに、マナの活動が活性化している今、微量程度の送還を追跡するのは困難です。久遠さんだって協会の感知魔法がそれほど優秀な物ではないと知っているでしょう」

「まあね。群衆の中に落とした眼鏡なんてあっという間に潰されて終わる。其の程度っていう風に教えてもらった」

「セオさんからですか?」

「そうそう。結構判りやいよな」

 朧が笑って言うと、アーヴァンがそう言えばと辺りを見回した。

「セオさんはご一緒ではないのですか?」

「うん、ちょっと……一足違いで爺さんトコ行った後でさ。調べ物に協会に戻ってる」

「そうでしたか。申し訳ありません、私がもう少し気をつけていれば手間を取らせることも無かったのに」

「いやいや。送還の事実がわかっただけでも収穫だよ」

 ――ただ、そうなると……どこへ流れて行ったかが問題だな。

 声には出さず次に生まれた問題を考えながら、二人は詰所へと入っていった。



上辺だけ知っても、それが全てに繋がる訳が無い。

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