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11.手掛かり手探り-1-


あの時はただ、楽しかったんだよな。

 ほんの数十分前の出来事を思い出して、エリクは再び溜息をついた。

 さっきからずっと出るのは溜息しかないな、と呟きながらも言ったからには見返してやりたいと言う気持ちが強かった。

「手がかりは『青い光とブラッドボアホンとアンドックアンドッグ』よし、大丈夫……おばちゃんたちの噂になってるくらいなんだから、絶対に手がかりの一つや二つ見つけてやる!」

 ぐっと手に力を入れてエリクは歩き始めたが、誰に聞くべきかが分からずに幾人もの談笑している主婦たちの間を通り抜け、黒い獣達が昼間に出てこない事を祈る露店商たちの言葉を聞きながら、ウロウロとするしかなかった。

 自警団に入ってからは多少直ったかと思っていた人見知り。

 しかし、いつもなら先輩のイルドたちが側にいて彼らが先に声をかけ、エリク自身はその後に顔を赤面させながらも住民たちに普段と変わりなく過ごしているかを聞くという具合だった。

 だが、今は一人きりだ。自分自身で尋ねなければ答えが返ってくるわけもない。

 誰に聞くべきか、どんな人なら知っていそうか必死に周りを見て探すが行きかう人々の歩く速度は探す少年にはとても速く、声を掛けようとしてもあっという間にどこかへと行ってしまった。

「と、とりあえず……現場を見て損は無いよな!」

 内気な少年はくるりと歩く方向を切り替えて自分が覚えている一番近くの現場へと走り始めていた。

 北西のエイワズ区は守護教会(エンゼラス)のお膝元として有名で協会本館に次ぐ大きな大聖堂があり、今の時分は横から射す太陽の光が釣鐘を照らし黄金色を更に輝かせ、その真下にある採光用の窓は創世の神を模した色鮮やかなステンドグラスがその色そのままに、大聖堂の中を照らしていることだろう。

 目標とする現場は大聖堂から更に南に下った広場になるが太陽の光を浴びた荘厳な建物の佇まいにエリクはその足を止めていた。

 今は亡き両親と小さい頃共に礼拝に来ていた事を思い出し、エリクはゆっくりと白い扉を押した。

 ギィ……と重たい扉の軋む音が天井高く広い礼拝堂に響き渡り、正面にステンドグラスの明かりを浴びた色鮮やかな五つの翼を有する女神に静かに音が吸い込まれていった。

 時間帯のせいか礼拝堂に人の気配はなく、エリクはゆっくりとやわらかな絨毯の上を進み、祭壇の手前で静かに両膝を付いた。

「父さん、母さん……どうか無事にこの事件が終わるように見守っていてください……」

「迷える子羊に、女神の祝福があらんことを……てところか」

 頭の上に手を置かれた感触と言葉にエリクはハッと後ろを振り返った。

 モスグリーンのシャツにデニムパンツのラフな服の上にいつもの白いコートを着込んでいた朧がそこに居た。

「えっ、あ……え、ええ! ど、どうして?」

「少し外でも歩かないか?」

 困惑するエリクをよそに朧はその腕を取り立ち上がらせ、歩き始めた。

 日が傾き始めたとはいえまだまだ明るい外の景色に二人は眩しそうに目を細めてから、通りへと向かった。

 守護教会大聖堂の側というだけあり通りに出ても静かな家々が並び、所々にある小さな雑貨店の品揃えは聖書や文具といったものが目に付いた。

「なんか飲む?」

「だ、大丈夫です!」

 雑貨店の店頭で販売していたジュースを前に聞かれ、エリクは思わず直立不動になっていた。

 その姿に朧は小さく笑ってオレンジジュースを二つ買い、一つをぽんっと投げ渡した。

「あ、あ。ありがとうございます……」

「そう硬くなるなって、笑え笑え。笑う角に福来るってね」

 言いながら朧はエリクの頬をぐにぐに解してから、また歩き始めた。

「シオンさんと一緒じゃなかったのか……なんかあった? それとも何かやらかした?」

「べ、別に何も無いですよ」

「そう? さっき飛び出して行ったように見えたのは自分の気のせいってことか」

 意地悪く返された言葉にエリクはうっと言葉を詰まらせて、何かを言いたそうに朧を見上げたがやはり、意地悪そうに笑う顔を見て口をつぐんだ。

「そういう久遠さんはどうして……ここに?」

「朧でいいよ。まあ、自分の場合は自主退院って事で……だから、シオンさんに会っても絶対に自分のこと言うなよ?」

「え、それって、まだ体のほう本調子じゃないってことじゃないですか! だ、ダメですよ! ちゃんと休めるときに休まないと治さないと、本当に体壊しちゃいますよ!」

「そうだな。でも、じっとしてるのは苦手でね。まあ、自分は平気だから心配しなくていいよ」

 柔らかく笑った朧にエリクは顔を赤くし、それを誤魔化すようにジュースを一気に飲み干していた。

 憧れる人がこんな直ぐ近くにいて、緊張しない人間はいるのだろうか? 少年はそんな事を考えながらパーカージャケットのポケットの中からメモ帳を取り出した。

 シオンと行動するからには何か事件の手掛かりになることを探せるのではないかと、期待して常に持ち歩いていたものだ。

「確かこの近くに辺も現場の一つがあるんだったな?」

 朧は自分の記憶を辿りメモをめくるエリクに訊ねた。

「え、ええ。そうです……この区、唯一の大型倉庫の側で遇ったみたいです。青い光がどうのって噂もあったらしいけど、シオンに聞いても教えてくれないし……」

 最後の拗ねた言葉に朧は何とも言えない複雑な表情と笑いを浮かべていたが、地面を向くエリクにその表情は一切見えなかった。

 知らないってのは、ホントに凄いよな。

 外見だけでは確かに守護者を率いる守護隊長(エオル)としては最年少といわれるが、その裏にある実力と本性を知るものとしては、呼び捨てにするには未だに勇気がもてないものだ。

 朧は気を取り直して現場となった市場の荷物を保管する倉庫へ辿りつくと、後ろをおっかなびっくりに付いてくるエリクへ振り返った。



嬉しいけど、凄く嬉しいんだけど……本当に平気なのかな?

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