山の天気
人の心も、まるで山の天気のように変わりやすい。
好きだと言っていった彼女は、いつの間にか嫌いになっていたようだ。
「……別れよ」
「えっ」
家にいるとき、これからどうしようかという話の途中、唐突に彼女に告げられた。
「なんで……」
「なんでって、私のこと、どうでもいいんでしょ」
俺の言葉にいちいち突っかかんでくる。
「どうでもいいわけないじゃないか」
「嘘つき」
俺が握ろうとする手を、彼女は払いのける。
「なあ、待てって」
立ち上がって出ていこうとする彼女を、俺は後ろから抱きしめる。
「ごめんな、そんなこと思わせてしまって。だから、これはお詫び」
手に持っていたものを、俺は彼女に見せる。
「これって」
「結婚してほしい。こういう格好になってゴメン」
瞬間、彼女は泣いていた。
思わず離れる俺、こちらに振り向いて思いっきり抱きしめていく彼女。
「私こそごめん。疑ったりなんかして」
人の心は移り気だ。
それこそ、山のようにどっしりと動かないときもあれば、風のようにすぐに消し飛ぶこともある。
それでも、俺は、彼女と添い遂げたいと思っている。