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「武器屋」

 短い石段を上り、木の押し戸を開くと、カランカランと鐘の鈍い音が鳴る。


 外から見て武器屋さん風だったお店は、内から見てもやはり武器屋さんで、基本的に西洋風なつるぎやりたて甲冑かっちゅうがトゲトゲしく並べられていた。


 そこに三十絡みの女の店主が一人。

 客に先ほどの冒険者が一人。

 そして、俺。


 店内はいやに静かだ。

 ……何だかいたたまれない。


 第一、冷やかしというのは客の方も気が引けるものである。

 でも、俺だって好きで冷やかしをしているのではない。

 おカネがないという大事実を前にしては、ただ立ち尽くすほかないまでのこと。


 しかし、本当にただ立ち尽くしていては冷やかしだとバレてしまうから、さもそれらの武器に興味深々というふうに顎に指を触れ、時折うんうんと頷いたりなどしておく。


 もちろん何も分かっちゃいない。

 ただ、何も考えていないというわけでもなかった。


 例えば、この刃渡り20センチほどのナイフ。これは700ボンドらしい。

 質素な銅の剣が2000ボンド。

 あちらの革の防具一式が4000ボンド。

 銀のつるぎが5000ボンド

 鎖帷子くさりかたびらが7000ボンド。


 そして、さきほどのご飯代が800ボンド。

 うん。

 何となくボンドの価値というものが立体的にイメージできてくる。



 そんなふうに考え込んでいると、客の冒険者と店の女が何やら喋りだす。


「デジレさん、頼むからもう少し負けてくれよ」


「ふん、それ以上は負けらんないよ。ウチだってボランティアじゃないんだ。そんなに負けてばかりいたら商売あがったりさ」


「そこを何とかお願いだ。剣がなくっちゃ冒険に出られない」


「ん?この前に買っていった剣はどうしたんだい」


「一昨日のダンジョン探索で折れちまったんだよー」


「よく生きて帰ってこれたね。でも、そのダンジョン探索で得た宝があるだろう。そいつを売っぱらって得たカネは?」


「それも昨日、賭け闘技場へ行って……」


「スってきたというわけかい」


「……そうだ」


「同情の余地なしだね。何か生活のモノをしちにでも入れるしかないだろうさ」


「ここで何か買い取ってもらえないか?」


「そりゃあウチは冒険に役立つものなら何だって買い取るよ。でも、あんたが身に着けているもので役に立ちそうなものなんてなさそうだ。冒険のタネ銭を稼ぐためにバイトするしかないだろうね」


「そんなぁ」


 冒険者はとぼとぼと帰っていった。



 ◇◆◇



 バイトか。

 まあ、普通に考えればそれだよな。


 と、彼らの話を聞いて思った。


 で、俺も武器屋を出て、しばらく行くと街の石造りの道路を修理している業者がいたので声をかけてみる。


「すみません」


「ああん?」


 筋肉質の兄ちゃんがツルハシを持って睨みをきかせる。


「あの、俺ちょっとカネに困っていて、できればバイトしたいんですけど」


「ちっ、近ごろ多いんだよな。ちょっと待ってろ」


 そう言うと、筋肉質の兄ちゃんはドカドカと去って、しばらくすると割腹の良い中年のオジ様を連れてきた。


「なんだお前。冒険者か?」


「いや、違いますけど」


「そうか。いや悪い悪い。近ごろ破産した冒険者が一時雇いしてくれってのが多くてな。で、お前はどうしてカネに困っているんだ?」


 そう言われて少し困った。

 というのも、異世界からやって来てカネが通用しなかっただなんて事情、信じてもらえそうにないからである。


「はぁ。実は俺、観光客だったんですが、カネを盗まれちまったんです」


 ので、少し話を変えて情に訴えることにする。


「カリムの街に観光客が来るだなんてな!そうかそうか!しかし、とんだ災難だったな。可哀想に」


「はい。もう困っちゃって」


「よしよし。雇ってやろう。でもな。俺らも別に誰でもできる仕事やってるわけじゃねーんだぜ?」


「そりゃわかってます。しかし、雑用でもなんでもお役に立てれば」


「そうか。じゃあ、俺らは今老朽化した道路の石を取り除く作業をしているから、廃材をあっちのラックへ運んでくれ」


「はい!ありがとうございます!」


 ということで、俺はこの世界で初めて、廃材運びの一時雇いの職を得たのだった。


 それにしても異世界に来てまでバイトするはめになるとは……


 こうして昼前から西日の傾くころまで現場は続き、俺はひたすら廃材を運び続けた。


「よう。お疲れさん。どうだった?」


「いやぁ。慣れない仕事で大変でした(汗)」


「そうだろ。しかし、アンタよく頑張ったな。これ、少ないがお礼だよ」


 と言って、中年のオジ様はなにやら硬貨のようなものを俺にくれた。


 これがボンドなのだろうか?


 俺はオジ様に礼を言って、最初の筋肉質の兄ちゃんに挨拶へ行った。


「おっ、アンタ。今日はありがとな」


「いえいえ。こちらこそ。ところで、この貨幣なんだけど」


「おう。どうした」


「俺、この辺りのカネの数え方よくわからなくて……これでいくらなんだろ?」


「ほー、アンタ。よほど遠くから来たんだな」


 何と言っても、軽く次元を越えて来ているからな。


「ええと。ひいふうみい……150ボンドだな」


「なるほど」


「アンタ頑張って働いてたのにな。オヤジの野郎、もうちょい弾んでやりゃイイものを……」


「いえいえ。雇ってくれただけで助かったよ」


「そうか。これに懲りずにまた困ったら来いよ」


「ああ。ありがとう」


 と言って、俺は現場を去った。










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