公衆浴場(3)
ガラ……
浴場の中へ入ると、爺さんや婆さんが4人ほど身体を洗っていた。
この公衆浴場は日本の健康ランドみたいに広いものではなく、隠れ家的なこぢんまりとしたところだったから、たったそれだけの先客でもう混んでいる感じすらある。
特に湯船は小さくて、一般家庭の浴槽だったらまあまあ大きいかというくらいだったので、数人でいっぱいいっぱいといったところだ。
そういう貧弱な浴槽だから、客のうちでも身体を洗ったあと湯船へは浸からない者も多いようである。
さて、俺は桶にかけ湯を汲んで、石鹸を泡立て身体を洗い始めた。
……アハハハ
しばらくすると、先ほど脱衣所で遭遇した女冒険者たちが、俺のとなりの席にやってくる。
カコーン……
浴場に甲高く響く桶の音。
俺のすぐ左隣でビキニアーマーの女がぴちぴちと泡を立て筋肉質の身体を洗い始めた。
その隣がつるつる割れ目の無毛の女。
一番向こうが白ふんどしだった黒い陰毛の女である。
女たちはダンジョン帰りなようで、しきりに今日の戦果を振り返ったり、冗談を言っては笑い声をたてつつ、頭を洗いだした。
肘と胸を張ってワッシワッシと頭を洗う女冒険者たちは、無防備な乳房をぷるんぷるん言わせながら時おり顔を見合わせ喋っている。
こうして見るとまるで乳房と乳房が喋っているようで、なんだか不思議だった。
その後。俺は身体を洗い終わると、少し迷って湯船へ浸かった。
湯船には婆さんが二人入っていて、枯れたヘチマのように垂れた乳房をぷかぷか浮かべていたので、俺が入るともうかなり手狭だった。
「すみません(汗)」
と謝りつつ浸かる。
「あら良い男だわ」
「お肌スベスベねぇ♪」
すると、お婆さんたちはシワシワの手で俺の肩を撫で、急に興奮した様子になったものだから、こちらとしてはすさまじい思いがした。
しかし、しばらくするとあの三人の女冒険者が身体を洗い終えて浴槽の方にやってきたので、お婆さんたちはすごすごと浴槽からあがってしまったのである。
それを見ると、どんなにずけずけ見えても老人は若さに対して負い目があるのだと知れて、ちょっと気の毒にも思われた。
ザバーン……
腰の曲がったお婆さん二人とは違って、若くたくましい女が三人入ると、浴槽はもはやギチギチである。
その上、彼女たちは風呂の中で元気良くフザケ合うものだから、しきりに女たちの裸の肩や太ももがこちらにもプリン♡プリン♡とぶつかってくる。
女たちは迷惑とも気づいていないようだった。
「ちょっと、やめなさいよ!えい!」
「きゃ!……アンタ、風呂でそんなん反則やろ!」
「……あ」
そんな時。
湯のひっかけ合いがエスカレートして、白ふんどしの女とビキニアーマーの女がムチムチ取っ組み合うと、その威力に弾き飛ばされて無口な地味巨乳が身体ごと俺の方に向かってきた。
それで、地味巨乳のお尻が、ちょうど俺のあぐらの上へプニっ☆と乗っかってきたのである。
「あ……」
「……アカン」
ビキニアーマーの女も白ふんどしの女も、ピタっと止まった。
そこで初めて彼女らは俺の存在に気づいたようにあわてる。
「す、すいません!すいません!」
「ほら、カナカナ。はよどきなて」
しかし、黒髪巨乳はぷいっとそっぽを向いて俺の上からどこうとしない。
「……」
どうやら仲間の女二人に怒っているようだ。
女二人はまたあわてて黒髪巨乳の腕をひっぱるのだけれど、彼女の尻は何かが突き刺さっているかのように頑として俺の上から動こうとしなかった。
「……ここがいい」
と黒髪がつぶやくと、ふんどしとビキニアーマーは顔を見合わせる。
「すんません。しばらくソレ、持っとってもらってエエです?」
「はぁ?……まあ。いいけど。軽いし」
「ごめんなさいね」
さすがに女たちも悪いと思ってか、しおらしく湯をちゃぷちゃぷやる程度に落ち着いた。
俺は少女が上に乗っかっていて動くに動けなくなってしまったので、居所悪く天井を見上げていたのだけれど、どうにも退屈してくる。
少女は俺のあぐらの上へとてもお行儀よく尻を乗っけていて、尾てい骨が俺の下腹を突き刺してちょっと痛い。
こちらへもたれることなく背筋は伸び、風呂の熱に汗ばむ肌が、美しい背骨の溝をツツーと滴っていった。
ほどかれた三つ編みが頭上へ巻かれてひとまとめにされているのが、細い頸から鮮やかなうなじを大人びて見せていたが、ギラギラと跳ね返すような攻撃的な肌が彼女の年齢の極めて若いことを物語っていた。
「あのぉ……」
「……」
と、もう風呂からあがりたい旨言おうとするが反応がなくて困った。
ので、後ろから手を回してこの黒髪巨乳のほっぺをつっついてみたのである。
プニ、プニ……
おお!
良いさわりごこち♪
プニ、プニ……びよーん!
「っ……(怒)」
調子に乗って伸ばしたのが悪かったのだろうか。
さすがにジロリとこちらをにらんでくる少女。
「ご、ごめん(汗)」
意外に怖い。
すっかり『どいてくれ』とは言えなくなってしまった。
しかも彼女ら長風呂で、なかなかいなくならない。
うーん……この際だから、情報収集の一環で世間話でもしてみるか。
「ええと……。なあ。あんたたちって冒険やってる人たちなの?」
と聞くと、黒髪がコクンと前へ頷いた。
ああ、一応聞こえてんだな。
「ふーん。ダンジョンって儲かる?」
今度はくてんと首を横へかしげる黒髪。
「いや、さっきみんなでダンジョンの話してたろ?」
「そりゃアンタ。階数にもよるがな」
すると、茶髪の白ふんどしが話に入ってきた。
「階数?」
「あなた。冒険者じゃないのね」
金髪のビキニアーマーも筋肉を土台にした勇ましい乳房を湯船に浮かべつつ話に加わった。
「……ああ。俺は旅の商人でさ。この街はずいぶん冒険者が多いよな」
と、いつものように『異世界から来ました』とは言わずにテキトーな身分を作る。
「そりゃあ当然やん。ここらは人間世界と魔族の領地との境目やもん」
「ダンジョンやら塔やら攻略ポイントは多いしね」
「そう、それ。あんたたち、ダンジョン攻略してたんだろ。俺そーゆーのやったことないから、どうやってやんのかって思ってさ」
「どうって。装備整えて、どんどん地下階段降りてくだけよ」
「それでどうして儲かるんだ?」




