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ウマくはない金貨(1)




 目を覚ますと、やたら息苦しかった。


 気づくと、俺の身体に女がギュっと抱きついてきている。


 そうだ、ベッドにはラトカが寝ていたのだっけ。


 むぎゅっ!ムチムチ♡♡


 両腕ばかりではなく両脚まで俺の尻の方をホールドしていて、まるでコアラのようにヒシっとしがみついてきていた。


 透き通るような長い銀の髪がベッドの上をはらはらとそよいでいるのがランプの光に煌いているのは美しく、可憐な心持にさせられたけれど、生々しい女肉に全身を拘束されて息もままならないのはたまらない。


「む……うぐ」


 俺は彼女の腕と脚とを一本ずつ俺の身体からひっぺがして、ベッドから脱出する。


「えい!この!……はぁはぁ……ひどい目にあった」


「うーん吉人、ダメだ。そんなところ……むにゃむにゃ……」


 この女、どんな夢見ていやがんだ?


「そんな……私のわきの匂いなど嗅ぐなぁ♡♡♡……むにゃむにゃ……ZZZ」


 嗅がねえよ!


 俺はあんまり腹が立ったので彼女を起こさず、そのまま洞窟を去った。




 ◇◆◇




 洞窟の外に出ると、異世界は朝だった。


 俺はカリムの街へ行き、行きつけの喫茶店でコーヒーを注文する。


 コーヒー1杯で40ボンドだ。


「おお、吉人よしとじゃねえか」


 すると、後ろの席でパフェを食っている冒険者のオッサンが声をかけてきた。


「ああ、どうも。ダントンさん。元気?」


 この男は一見ヒゲつらが怖くていかめしいけど、日本から持ってくる俺の商品を面白がって買ってくれるし、仲間も連れてきて紹介してくれる気さくなオヤジである。


「オレはいつだって元気さ!お前こそ、商売はどうだ?」


「おかげさまで、コレもんっすよ」


 と、俺は12万ボンドの入った袋をドカっとテーブルの上へ乗せた。


「ほう。たいしたもんだな」


 ダントンさんは口ひげに生クリームをつけて感嘆かんたんする。


「お待たせ致しました。ブレンド・コーヒーです」


 その時、ウェイトレスが俺のテーブルへコーヒーを運んできた。


「ありがとう。……まあ、この街での商売は調子イイ感じなんだけど」


 とダントンさんに答えつつ、俺はきびすを返したウェイトレスの女の尻をぼんやり見つめていた。


 その制服は、短いタイト・スカートで太ももなどはかなり上まで露出している。


 パンパンの太ももに、膝の後ろの見事な筋。


 俺はこういう下品なのは嫌いなのだけれど、あの女はあんなに尻を媚びるように一生懸命ぷりぷり振って歩いているのだから、これはむしろ少しくらいでてちょっかいをかけてやらないと可哀想じゃなかろうか……


 と思って、そーっと手を伸ばし始めた時、


「きゃあ!!」


 とウェイトレスの悲鳴があがった。


 え? 俺はまださわっていないぞ?


「うっししっし♪」


 そう。横から別の男が割り込んできて彼女の出っ張った尻をぷりん☆とでたのだった。


 30歳くらいのニヤけた男である。


「ひひっ♪ナナちゃん。相変わらずイイケツしてんな♪」


「もう!」


 そんな茶番が俺とはまったく関係のなく繰り広げられる。


 が、その時。


「コラ!お前!!今何をした!!」


 と怒鳴り声をあげる男があった。


 他でもない。隣のダントンさんである。


「え、いや……別に」


「別に、じゃない!この子は真面目に働いているところなのに、なんて卑劣なことをするんだ!恥を知れ、恥を!!」


 と、烈火のごとく怒り、男へ説教を始めるダントンさん。



 へえ。この人、こういう人だったのか……


 と、俺はダントンさんの地雷ポイントを心へ深く刻んだ。


「ったく。どーしようもねー野郎だ」


 説教を終えて男を開放した後も、ダントンさんはまだ怒っていた。


 これは早いところ去ったほうが良さそうだ。


「じゃあ俺、そろそろ出ますわ」


 と、俺は席を立って、12万ボンドの袋から40ボンドをジャラジャラと取り出す。


「吉人、お前。カネをそんなジャラジャラしてたら危なっかしいだろ。両替くらいさっさとしておいた方がいいぜ」


「両替?」


「……お前、旅の商人のくせに両替も知らねえのか?」


「はぁ。かけだしなもんで(汗)」


「つくづく変わったヤツだなあ。まあ、オレも本業じゃあないからテキトーなこと教えるのはどーかと思うけどよ。ここらの冒険者の使うカネは、小さい額から銭貨、銅貨、銀貨、金貨とあってな……」


 というふうにダントンさんはこのあたりのおカネについて教えてくれたが、俺はこの鉛色をした一つ10ボンドの銭貨しか見たことがないから、いまいちピンとこなかった。


「とにかく、その両替屋というのに行ってみるよ」


「それが良いさ」


「じゃあここのお代は俺が出しておくね」


「よせよ。気を遣うんじゃねえって」


 と言うが、俺はダントンさんの伝票を取り上げて一緒に席を立った。


 パフェの代金くらいで恩に着てくれたら安いもんである。


「ありがとうございまーす」


 レジへゆくと、やって来たのはさっきのウェイトレスだった。


「あ、これお会計一緒でイイです」


「はい……あっ……」


 しかし、カネを渡していると、女が眉をひそめるのに気づく。


 俺の顔になんかついているかなって思ったけど、そうではなく、よく見ると彼女はダントンさんの方にヒイているらしかった。


 なるほど。たしかに、さっきのダントンさんはマジになって怒鳴って場所の空気を凍らせる厄介な親父だったもんな。


 でも、そこはせめてお前だけはダントンさんに好意持っておくべきとこだろ……と思ったけど、そういうのは男の勝手な見方なのだろうか。


 なら、やっぱり女の尻は積極的にさわってやるのが正解なのかもしれないな。


 と俺は思った。



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