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「家賃問題」(5)



 で、現世に帰ってくると相変わらず管理人さんは気を失っていた。


 一瞬、気を失っているうちにスカートやらパンツやら全部綺麗に洗ってあげて、目を覚ました時には何事もなかった……というふうにしてあげたら本人のためかもしれないと思ったが、そのためにはこの俺が女性のパンツを脱がせたりなどしなければならず、(年齢制限的な)問題があるから止めた。


 そこで、俺は女の肩を両手に抱いて、一発気合いを入れることにする。


「はっ!」


「ひゃっ!……あれ?」


 瞬間、どこで目を覚ましたのかわからないというような様子で戸惑った顔があどけない様子で可愛らしい。


「あっ、蘇我さん♪」


 俺の顔を確かめると、少女は安心したようにニッコリ笑った。


 ぐっしょり……


「え?」


 しかし、女子校生はスカートのぐっしょり具合から痛恨の粗相に気づくと、ハっとして数秒後、えんえん泣き出してしまった。


「えーんえーん(泣)ごめんなさいごめんなさい」


「大丈夫、大丈夫だから」


 可哀想に。

 酷くショックを受けた感じだ。


「よしよし」


 俺はまたこの女をなだめてから、風呂に入ってもらい、スカートやらパンツやらを洗濯にかけてから、雑巾でクローゼットや部屋の床を綺麗に拭いた。


 それから、さっき飛んでいってしまったボタンを床から拾い集めて、裁縫セットを持ち出す。


 カッターへボタンを縫い付けるのだ。


 ガラ……


 そこへ、俺のシャツとスウェットを着た管理人さんがシャワーからあがった。


「洗濯モノ、乾燥機にかけてるから」


「はい、すみません……グスン」


 ボタンをすべて付け終わる頃に、乾燥機が終わった。


 するとパンツとスカートはホヤホヤと何事もなかったかのような顔をしている。


 よかった、よかった。


「じゃあ、部活頑張って」


「はい。ありがとうございました。あの、このこと叔母には……」


「大丈夫。黙っておくよ」


「すみません……」


 乾いた制服に、もう何の間違いもない女子校生の姿に戻った管理人さんであったが、シュンっとして非常に落ち込んでいた。


 家賃を取り立てに来た時の勢いはない。


 バタン。


 こうして管理人さんはフラフラと去っていったのだった。




 ◇◆◇



 やっと一人になった。


 今日、俺はいろいろと頑張ったと思う。


 が、甚大な労力のわりに家賃問題はなんら解決していなかった。


 問題が、やはり問題であるということがわかっただけである。


 グウ……


 ああ、腹へった。


 事実、こちらの世界では月5万の家賃どころか、普通にしてたら生活費すらキツいのだ。


 次のバイトの給料日までまだ半月もある。


 5千円じゃあタバコ代もままならない。


 日雇い派遣でもやるか?


 でも、それで稼げるのはたかが知れている。


 ジャラ……


 俺は12万ボンドの貨幣の入った袋を掴んだ。


「やっぱ、コイツを円に変えないとな」


 そう言って、俺はクローゼットへ入り、内側に付いている鍵を横へ回した。




 ……


 開くとあの異世界の洞窟である。


「ふう、やれやれ」


 そう言えば、異世界で羽振りのよくなった俺は、この洞窟にも改装を凝らしていた。


 まず、このクローゼットに至る前に鉄の扉を作って、よそ者の侵入を防いでいる。


 それから、内側をカリムの町の業者に工事してもらって、部屋に作り変えてもらった。


 魔力で光るランプを設置し、絨毯を敷いて、その上にソファーとベッドを置いている。


 洞窟の中の秘密基地みたいでテンションあがるだろ。


 実際、異世界に来てもクローゼットの前が俺の部屋になっているってのは便利だしね。


 今日みたいに疲れた日はすぐにベッドに倒れて、こちらで眠ることも可能だ。


「スースースー……zzzz」


 ところが、ベッドには先ほど異世界に置いてきたラトカが眠っている。


 この女は、なぜ俺のモノを自分のモノのように考えられるのか?


 そう思って一瞬、叩き起こしてやろうと思ったけれど、よく考えればコイツ、昨日の夜からずっとゲームしていたんだ。


 しょうがない寝かしておいてやろう……と思い直し、俺もベッドへ潜り込んで寝た。



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