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「家賃問題」(1)


「やっ!と、おっ!」


 俺の部屋で、女賢者ラトカがゲームのコントローラーを持ってガシガシ肩をこちらにぶつけてくる。


 テレビ画面上で繰り広げられるカーチェイス。


 1コンの車が俺で、2コンの車がラトカだ。


 ラトカは操作するのと同時に身体が動いてしまうタイプらしく激しく左右に揺れてしばしば俺の身にぶつかってくるのだった。


 この女、乳房には脂肪をたっぷりつけてるクセに、他は痩せてて骨ばっているから、硬い肩が俺の二の腕をグサグサと突き刺して痛いったらない。


 俺はこの妨害の中で画面上の車をコントロールしなければならなかった。


「もう!この、この」


 しかし、テレビ画面の中ではデットヒートということもなく、断トツで俺が先行していたのである。


「あー!また負けた……何故だぁ」


 俺がゆうゆうゴールすると、女はコントローラーを投げた。


「なあ、もうおしまいにしよーぜ。何度やっても結果は同じだって」


「そうは行くか!まだ私は一回も勝ってないのに!」


「はぁ……つーかさ。いいかげんアンタもう帰れよ」


 俺はクローゼットの方を指さして言った。


 そう。

 あれからラトカとは何回か遊んで仲良くなったのだけれど、それで「どうしても吉人の世界に行ってみたい」というから、断り切れなくて連れて来たのだった。


 まあ、俺の部屋までだったら面倒も起こらないかな……と思ったワケだ。


 でも、やっぱり連れてくるんじゃなかった。


 この女、なかなか帰りやがらない。


 帰らせるためには毅然とした態度が必要であろう。


 だから少しキツめに言ってやったわけである。


「む……ぅぅう」


 すると、ラトカは目をうるうる潤ませてなんだか寂しそうにするのだ。


 目、でっけえな……


 ……などと思いながら、これでは俺の方が悪いヤツな感じになってしまっているのに居心地が悪くなって、


「しょうがねえな。あと一回な」


 と答えてしまった。


「よーし、今度は負けないぞ」


 とハリキるが、困ったことにこの女にはゲームの才能というものがカケラもない。


 普通にやれば絶対に俺が勝ってしまう。


 よって、俺は必殺『手加減』を発動した。


「うっ、ヤバイ。カーブが……」


「やった、抜いた!よし、よし!行け行け」


「くそっ、待てぇ!ああ!スリップだぁ」


「よ!や!と!……はっ、やった!勝った勝った!!」


 すると、俺が手加減してやったのにも気づかず、ラトカは初勝利に大変喜んだ。


 少し良心が咎めたがやむをえまい。


「やった!やったぁ!」


「よしよし、じゃあ帰れ……」


「嬉しー♪」


 だが、ラトカは興奮してぎゅうぎゅう抱き着いて離れようとしない。


「よ、よせよ。おっぱい当たってるってば!」


「むっ、よいではないか。キサマも男なら乳のひと揉みやふた揉みチャチャっとせんか」


「ワケわかんねーって!」


「あ!さてはキサマ……」


「??……なんだよ?」


「乳がコワいのか?」


「はぁ?コワいわけねーだろ。俺をナメんじゃねーぞ」


「フッ、どうだか(笑)」


 と、鼻先で笑う感じがあんまりに憎たらしかったので、


「よっしゃ、いっちょ揉んでやるか」


 と、言ってしまった。


 すると瞬間、女賢者様の瞳がキラーンと光って、スポポポポーンっと布の服とスカートを脱ぎ、あっという間に裸ん坊になってしまったのである。


 まるでクレヨンしんちゃんのような早業だった。


「フフフ、キサマ言ったな?」


「うっ……」


 銀髪をサラリと払い、下着姿でにじりよって来る女賢者ラトカ。


 パンツとかもこの前の地味な白ではなくって、刺繍がたくさんされたブルーのショーツで妙に色っぽい。


 これ、勝負下着じゃね?


 しまった。この女、初めから計算づくだったのか……



 ピンポーン!!



 しかし、その時。この見計らったかのようなタイミングで玄関のチャイムが鳴ったのだった。


「あ、お客さんだ」


「むぅ。いないことにすればよいだろう」


 と言ってすがりついてくる裸の女。


 すると俺も『そーしよっかな♪』っという気分にちょっぴりなったけど、


「蘇我さん!立花ですけど!」


 という声が聞こえてそういうわけにもいかなくなった。


「ヤバイ!管理人さんだ」


「?」


「アンタ、ちょっと隠れてて」


「どうした。慌てて」


「説明しているヒマねーから」


「むぅ……わかった。では透明人間になって待っていることにしよう」


「なにソレ?」


「大魔法スケスーケを使うのだ。これを使えば私の姿は透明になり、人からは見えなくなる。私ほどの大賢者でなくては使えない、超高等、高級魔法だぞ」


「おお、いいじゃん。それでいこう」


「うむ、では少し離れていろ……ちちんぷいぷい!」


 大賢者様が呪文を唱えるのは初めて聞いたけど、なんかテキトーな呪文である。


「どうだ」


「どうだ、とは?」


「キサマからは私の姿が見えないだろう」


 と、女がデカい胸を反らして威張っている。


 もみ♡


「いやん♪」


「いやん……じゃねえよ。ぜんぜん透明になってないんですケド」


「え?なに?オカシイな」


「もしかすると、こっちの世界では魔法が使えないってことなんじゃねーの?」


「はっ……そんな。どーしよう」


 こうなると大賢者様は甚だうろたえなすって、キョロキョロするのみとなってしまった。


 ピンポーン!


「蘇我さん!いらっしゃいませんか?」


 ヤバイぞ。


「とにかくアンタ、このクローゼットに隠れてろよ」


「う、うむ……」


 俺はラトカをクローゼットへ押し込んで、玄関へ走っていった。


「はいはーい!今出まーす!」


 ガチャリ。


 大慌てでドアを開ける俺。


 すると、そこには制服姿の女子高校生が一人立っていた。


「どうも管理人さん、お待たせして。ちょっとトイレへ行ってて……」


 と、俺がイイワケをすると、


「良いんですよ、蘇我さん。ところで、お家賃の方をいただきにまいったのですけれど」


 と言いつつ、女子校生は可憐に微笑んだ。




 ちなみに、俺の今の所持金は12万ボンドと5千円であった……


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