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「お尻」

※クローゼットとは→衣類を収納したりする、洋室版の「おしいれ」のこと



 シャツを替えようと部屋のクローゼットをゴソゴソ探っていると、扉の内側に妙なものを見つけた。


 妙なものとは小っこい鍵穴のこと。


 鍵穴の横には銀の細い鍵もテープで貼り付けられている。


 一瞬、鍵付きのクローゼットというのもあるか……とは思ったが、よく考えてみるとやはり変だ。


 だって、これが外側に付いているのであればまだ話は分かるけれど、クローゼットの内側から鍵がかかっても普通役に立たないだろう。


 鍵をかけてもクローゼットから出られなくなっちゃうんだから。


 業者が設計を間違ったのか?


 それとも何か俺の気づかないような使い道があるのだろうか?


 そこで俺は、ためしにクローゼットの中へ入り、おそるおそる内側から鍵穴へ鍵を差し込んで、それを横へ回してみた。


 ガチャリ……


「これで鍵がかかったんかな?」


 そう思って戸を引いてみるが……スルスルと何の抵抗もなく開いて行ってしまった。


「なんだ。壊れてんのかよ」


 と落胆して、部屋へ戻ってゴロゴロしようと思ったのだけれど、その時、ただならぬ違和感が視界を覆った。


 !!


 なんと、開かれたクローゼットの向こうは、俺の部屋ではなくなっていたのだ。


 それは暗く、湿っぽく、岩だらけの場所。


 普通、洞窟と呼ばれるような場所である。


「ど、どういうことだ?」


 そう呟きながらも好奇心に抗えず足を踏み出す俺。


 洞穴はそれほど長くなかった。


 すぐに陽の光が見えてきて外に出ることができたのだが、そこは見たこともない森の中である。


 どう見ても住宅街である俺の家の周りではない。


 さすがにあせった俺はダダっと走ってクローゼットへ戻り、今度は逆に鍵を縦へ回して元通りにしてみた。


 すると、これまたクローゼットごと自分の部屋に戻って来たのである。


「はあはあ……な、なんなんだよ」


 俺はおそろしかった反面、『この世の裏面』みたいなものを発見した気分でとても高揚こうようしていたのだった。



 ◇◆◇



 このクローゼットのビックリ機能を知ってからというもの、俺は日常的にあちらとこちらを往復するようになった。


 それで何をするという目的はない。


 ただ、自分の部屋から別の変な場所へワープするのが面白かったのである。


 都合のいい不思議な私的リゾート地のように考えていたかもしれない。


 それが大きく変ったのは、あちらの世界で人に出くわしてからだった。


 いや、それは正確な言い方ではないな。


 俺は、「お尻」に出くわしたのだった。




 ある日、いつものようにクローゼットからワープして森の合間を優雅に散歩していると、鬱蒼うっそうとした木の繁みにお尻がプリっと生えていた。


 意味が分からんと思われるかもしれないが、マジでそうだったんだから仕方ない。


 お尻はスカートをひらひらさせて、右へ、左へ振るたびに、純白のパンティをちらちらのぞかせている。


 ので、お尻のメスなのだろう。


「。~□!!!!」


 お尻が喋っているようだ。


「あの、大丈夫ですか?」


「◎△∵!」


「はい?」


「◎△∵!!!!」


 これには参った。


 だって、何を言っているのかさっぱり分からないのだから。


「やっぱり、人とお尻は分かり合えないんだな……」


 そう呟き、あきらめてきびすを返そうとした時。


 ポワーっと、世にも幻想的で神聖っぽい青の光が放たれた。


 そう。お尻からだ。


 そのお尻から放たれる神々しい光は、こちらへ向かって来て俺の全身を包んでゆく。


 逃げようとしても、光に捕らえられて逃げられない。


「このお尻め!離せ!」


 そう叫んだからかどうかは知らんけど、そこでお尻は返事するようにプリ♡プリ♡っと跳ねた。


 すると神聖っぽい光は消え、俺の身体の自由が戻ってくる。


「何する!このお尻!」


「お、成功したようだな」


「え?お尻が日本語をしゃべってる?」


 さっきまでお尻語をしゃべってたのに。


「フフフ、これは『日本語』とかいう言語ではない。キサマに通語魔法をかけたのだ」


「魔法?魔法なんてものがこの世に存在するはずがないじゃないか」


「なに?キサマ、魔法を知らんのか。さてはこの世の者ではないな」


 なんかエラそーなお尻だ。


「知らないことはないけれど、存在するはずがないと言っている」


「むむ、妙なことを言うヤツめ。魔法を知りながら存在はしないだと?何やら哲学的だな」


 なに言ってんだコイツ。


「別に哲学的でもなんでもないだろ。魔法というのは、ゲームとか小説とかそういうものにでてくる空想上の産物で、実在はしないものなんだ」


「むむ、通語魔法に失敗したかな……何を言っているのかサッパリわからん」


「ほら、やっぱり無いんじゃん」


「しかしキサマ、現に魔法にかかったではないか。私の放った青い光の魔法を見たろう」


「そりゃあ、まあ見たけれど。確かにお尻の穴からプスーっと……」


「妙な言い方をするな!違う!違うぞ!」


「まあ、どこから出てきたかは良いとして……」


「良くない!手から出たのだ。キサマが背後におるから、魔法が後ろへ流れて……」


「はあ、そうですか。それで、あの光が何だっていうんだ?少しまぶしくて、動きを止められただけだし。痛くもかゆくもねーよ?」


「フフっ、今キサマにかけたのは通語魔法ランゲージだ。これでキサマはキサマの母語を喋りながらも、私の母語話者ともコミュニケーションが取れるのだ。どうだ?便利だろう?私ほどの大賢者でなければ使えぬ超高級、高等魔法だぞ」


「あれ、やっぱり失敗なんじゃ?何言ってるかサッパリわからないし……」


「それはキサマの頭が足りんだけだ」


「む、失礼なことを言うお尻だな」


「お尻ではない。キサマ、人の尻があればその先に頭まであるとは考えられんのか?」


「……なるほど、一理ある。その可能性もないことはない」


「可能性ではなく、あるのだ」


「だったらいつまでもお尻の*でばっかり喋っていないで、顔をあげてフツーに口で喋ったらどうだ?」


「キサマ、本当に人をバカにしたやつだな。まあ、いい。実はだな、モニョモニョ……」


「何だって?聞こえないんですが」


「モニョってしまってモニョないのだ」


「え?聞こえない。やっぱり魔法が失敗したんじゃ」


「ハマってしまって抜けないのだ!」


「はあ?」


「転んだ時に、細かい枝やつるが密集しているところへ頭から突っ込んでしまって……頼む。抜いてくれ」


「いいけど。そんなマヌケなことって、実在するんだな。魔法の存在よりもビックリだよ」


 なんかよくある凌辱系のエロ漫画みてーだ。


「私だってこんなことが本当にあるだなんて思ってもいなかった」


「まあ、起こっちまったことは仕方ないか。じゃあ失礼して」


 と言って、防御力の低そうな薄い布地のスカート越しに、お尻のメス……ではなくてメスのお尻をムチっとつかむ。


「やん……♡」


「お、おい!変な声出すなよ」


「き、キサマが変なところをさわるからだろう!」


「しょうがないだろ。この中じゃあお尻が一番出っ張ってるんだから、ここをちゃんと掴まなきゃ抜けるものも抜けないじゃん」


「で、でも……」


「うーん、がっちりハマっちまってるな」


 しかし、スカートの布がキュルキュルしてすべるのでうまく掴めない。


「ぅふん……♡そんなふうに思わずうっとりしてしまうような優しい手つきでナデナデしてて抜けるわけないだろう!いいかげんにしろ!」


「誤解するなよな。これはお尻のどの辺りをどういう角度で掴むのが一番抜きやすいかを検証しているんだ。文句があるなら他の人にやってもらえば……」


「え……いや、疑ってすまない」


「なあに、わかってくれりゃあ問題ない。やっぱちょっと布が邪魔だな」


 そう言ってスカートをペロンと捲ると、パンツ一丁のお尻がブザマに露出された。


 ギラギラ若い肌の太ももがモジっとして、パンツは白一色。


 その白布に尾てい骨の出っ張りが硬質な陰影を宿し、プリっとした尻肉に沿ってパンツの細かい縫い目が整然と弧を描いていた。


「ぐぬぬ、恥ずかしい」


「言っている場合じゃねーだろ」


「んっ、はぁはぁ……どうだ、抜けそうか?」


 パチン!パチン!


 そう聞くので、いっちょ両手で直接、尻の肉をガッチり掴んでみる。


「ああ、大丈夫。これだけムチムチして弾力のあるお尻なら、取っ掛かりになってちゃんと掴めるぜ。だから気を強く持って。きっと助けだすからな」


「キサマ……」


「じゃあ行くぜ。せーの!」


「んっ、んん。ああ!」



 こうしてお尻を引っ張りあげてやった女が、俺がこの世界で初めて出会った人間――女賢者ラトカだった。






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