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第三話 取引

 ダークネスによって作られた対魔法少女用人型兵器、

 そんな切り札を人類の敵(ダークネス)は持っていたのか。

 私はそんな牟岐君を殺さなければならない。

 でも……私は殺せるのか?

『ボクを殺すことをまだ諦めていないのか?』

 だって牟岐君の「生き死に」が、私の「死に生き」にかかわっているんだ。

 誰だって、自分の命は惜しい。こんなところで、こんなことで私は死にたくない。

『気付かないのか? ボクを殺さず、君も死ぬことがない、そんな方法に?』

「……え?」

 そんな抜け道なんてあっただろうか。

 私も今までに何度かヘマをした魔法少女が一般人を殺したという話を聞いたことがあった。

 そして、一般人を殺した魔法少女たちは、お咎め無し。とまではいかないまでも、極刑に処されることはなく、大抵の場合は反省文程度の罰で済まされていた。

 それ故に、私も目撃者を殺すことに異存は無かった。

 しかし、目撃者を殺されないで済む方法?

 仮にそんなものがあれば、魔法少女はもう少し公になっていると思うが……、

 ダメだ。少し考えてみても深夜二時の頭ではうまく考えがまとまらない。

『使い魔システム』

「は?」

『簡単なことだ。ボクを使い魔にしてしまえばいい』

「つ、使い魔?」

 使い魔。それは魔法少女たちの戦闘やその他日常生活を補佐するための存在だ。

 私は一体も持っていないけれど、他の魔法少女には、一人で何十体もの使い魔を使役している者もいる。

『君たちは比較的低級のダークネスに魔力を与えることで、ダークネスを手懐けて使い魔とするのだろう? ならば君もこのダークネスたるボクを使い魔にしてしまえばいい』

「そ、それは……」

 確かに、使い魔なら魔法少女の内部事情を知っていても問題はないはずだ。

 知能の高いダークネスを使い魔として、まるで執事のように使っている魔法少女も日本にはいると聞く。

 事務的な仕事をそのダークネスに任せて、自分は戦闘に集中する。確か横浜にいるんだったかな?

 つまり、牟岐君を使い魔にすれば確かに、情報漏洩自体が起こっていないわけだから、私が死ぬ理由がなくなる。

 これだけを聞けば、私には利益しかないように見える。

 でも問題は二つ。

 一つは、彼がただのちょっと頭のいいダークネスではなく、対魔法少女用人型兵器を自称していて、彼のスペックの高さを私は目の当たりにしたことだ。

 彼を私の管制の下に一旦は置けたとして、その後私の手に負えなくなった場合、彼が魔法少女を、さらにはこの世界を滅ぼしかねないということだ。

 そもそも彼の素性を協会に隠し続けること自体もリスキーだ。

 そしてもう一つ分からないのが、

『いい話だとは思わないか?』

 このことが牟岐君に与える利益だ。

 こんな回りくどいことをして牟岐君に何のプラスになるんだろうか。

 この世界に人知れず現れる、奴らダークネスの目的はよく分かっていない。

 ただ、人間を敵視しているというのは事実だ。 

 魔法少女とダークネスの戦いの歴史は古く、有史以来続いている。

 古い書物にも化け物が人を喰うという話は多いが、協会曰くそれらの化け物というのは全てダークネスと同一であるらしい。

 そんなダークネスの中で牟岐君に与えられた目的は『魔法少女の殲滅』。

 それならば、いっそのこと協会の本部にでも乗り込めば、多くの魔法少女がいるし、牟岐君の目的は簡単に達成できる。

 なのに、なぜすぐにそうせずに私の使い魔になろうとする?

「……何が目的なの?」

 聞くは一瞬の恥、聞かぬは一生の恥というのが私の信条だ。

 分からないことは分かる人間に聞くのが一番早いし確実だ。

 すると、牟岐君は笑った。

『ボクの目的が何か、そんなことを言う権利が君にはあるのか?』

「うっ……」

 お互いに攻撃はできないけれど、取引を持ちかけてきたのは牟岐君だ。

 この時点で私の立場が悪いのは言うまでもない。

『心配は無用だ。これはウィンウィンの取引だ』

「ウィンウィン……」

 つまり、牟岐君には何かしらの利益があるのか……。

『いい話だろう?』

 そんな甘言に騙されてはいけない、牟岐君はダークネスなのだから。

 と、私が魔法少女としてどんな対応をするべきなのかは私にも分かる。

 ……。

「わ、分かったよ。乗ってあげるよ」

 気がついたときにはそう言っていた。

『賢明な判断だ。さあ、ボクを使い魔にするといい』

 ……致し方ない。さて使い魔契約をしようじゃないか。

 えっと……、

『どうした? 魔法少女?』

「……ごめん、契約のやり方知らない」

『……は?』

 し、仕方ないじゃないか。

「私、使い魔って持ったことないんだもん」

 何というか、敵であるダークネスを仲間にするというのは少し抵抗があったのだ。

 だから私は使い魔を使ってこなかった。

『まあいい。言質は取った。協会にでも問い合わせておけ。猶予は二十四時間だ』

「わ、分かった」

 それを聞いた牟岐君は瞳を閉じた。

 魔法少女と使い魔(仮)、その主従関係は今ここに逆転した。

 ……でもとりあえず、その場しのぎだけど、私の命は繋がった。



「……ZZZ」

 牟岐君が目を閉じて数分後、寝息が聞こえてきた。どうやら牟岐君は眠りについたようだ。

 もしかしたら、今だったら殺せるかもしれない。

 魔法を使わずに、そうだな、包丁とかを拝借して……、

 私がこの家の台所に包丁を取りに行こうとすると、

『無論、眠っている間にボクを殺すなんて考えるなよ?』

「お、おう」

 ……無理っぽいや。

 だったら、少し回りくどいけど、将を射んとすればまず馬を射よ、っていうし。

 ここは馬を射ることにしよう。

 次回 魔法少女、馬を射る?

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