蝶を抱く花
白く美しい君。ひらりひらり優雅に飛ぶ君を見て、私は一瞬で恋に落ちた。
決して結ばれない恋だ。君は、自由に宙を飛び回る紋白蝶。私は、一生どこにも行けないただの花だもの。
出会いは、私が咲いた時だった。君は私のわずかな蜜の香りを求めて寄ってきた。初めて見た、美しい生きものだった君は、ちょっとだけ私の蜜を飲み、ひらりひらり去っていった。
行かないで!そう叫んだけれど、花の私の言葉なんて君には届かなかった。私は悲しみに暮れ蜜という涙を流した。
すると、そんな私を慰めるように寄ってきたのが蜜蜂達。私の蜜は一滴残らず蜂達にやってしまった。
そして私を待っていたのは変色し、枯れ果て腐敗していくという運命だ。
君は、今どこにいるの?私の事など忘れて、誰かと恋をしてるのかな?私にはもう時間がないのに。もう一度だけ逢いたいという儚い希望は嵐の中途絶え掛けた。
その時だ。悲しみは強い風となり、私は花びらを散らしながら君を見た。君は美しい羽をもがれはらりはらり落ちてきた。
私は残ったわずかな花びらで君を包み込んだ。君は、何も言わず、静かに息を引き取った。
私の願いは叶った。最後に逢えてよかった。結ばれない恋だとわかっていながら、君は私の元へ再び来てくれたのだから。
伴に朽ちていこう。私に蜜はもうないが、君を一生離すことはない。
嵐が去った後、私達は土へと還っていった。素敵な命だった。
ありがとう。
END