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07

「ひゃっはあ! 痛快だぜ!!」

「左前方! 二!」

ありったけの弾を薬室から漏らしながら二人のクローンが瓦礫に身を寄せ、ソノイが持ち込んだ銃身の長いクローンガンを撃ちまくっていく。

「一つ! やったぜ!」

「もう一つ来るぞ!」

「他の人たちは!?」

ソノイはもう一つガンを別のクローンに投げ渡して、今自分が走ってきたトラックの車列を指さす。

「あっちに行ければまだまだ銃がある! けど弾はそんなにないわよ」

「援護する! 俺たちが敵の目を引きつけよう!」

瓦礫に腹ばいになる兵士がマスク越しに振り向いた。

「早く、あっちの方へ!!」

「ひいやっはあー!!!」


同じくローンなのに、こうも性格が違うものか。

ソノイは銃身の短い自分自身の銃を脇に抱えて、他の兵士たちを後ろに並べた。

すぐ後ろには別の兵士だ。黄色い肩章を肩に付けて、身分はユウヤ少尉と同じくらいかすこし上ぐらいだろう。クローン軍にも、人間とまったく同じ上下関係があるらしい。

「けが人がいる! トラックの影だ!」

「あとで迎えに来ます!」

「うむ。いやちょっと待ってくれ」

クローンは言いかけて、すぐに振り返ってマスク越しに戸惑った様子を見せた。

「きみは、まさか人間か? なんでここにいる?」

「話は後でしょう! さあ早く走って!!」

「クッ、すまない恩に着る!!」

ソノイの持ち込んだガンを脇に抱え、一列に並んだクローン分隊と指揮官が走って行く。その後からソノイも飛び出して近くにいた緑のバケモノ、バーヴァリアンを狙い撃ちした。

「っ!?」

弾切れか? 違う、弾詰まりだ。

ソノイは銃を捨てられず、ベルトの先にガンを垂らしたまま先を走る仲間を追いかける。

しかし、今し方片手で撃って撃ち漏らしたバーヴァリアンが怒りの声を上げて、石斧を持ってソノイを追いかけてくる。

「ギュォアー!」

「しまった!」


ジュッと、赤いラインが空中を飛び交ってバーヴァリアンの右腕を焼きちぎった。

「ギュギェギャ!?」

バーヴァリアンの縮れた毛が頭上で揺れる。痛みの表情で腕を抑えて転げ回るバーヴァリアンの横をすっ転ぶようにしながら陣地に戻り、今し方自分を守ってくれた銃手の方を見た。

クローンだ。黒いゴーグルとマスク越しに、こちらに向かって指と腕を振ってくる。

「ナイスキル!」

クローンはそう言うと、再びそっぽを向いてガンを撃ちまくり始めた。



元々荒野に展開していた敵の包囲陣は、数は少なかったようだ。

ソノイたちのトラック隊の突入と、ソノイが武器を持って救援信号を飛ばしていた分隊に駆けつけたおかげで戦況は好転しつつある。

最後の特大バーヴァリアンが、うなり声をあげて苦しそうに拳を振りあげた。

足下に広がるクローン兵たちも、叫び声とバーヴァリアンの挙動を読んで踏みつけられないよう足下を整える。さすがと言った感じだ。兵たちは全員手練れていた。


中型ミサイル運搬機のバンドルウォーカーは、代わりに小物バーヴァリアンたちをガトリング砲で一掃している。

ソノイはそれらバンドルウォーカーが吹き飛ばした小物のバーヴァリアンを銃で撃ち散って、側面からの支援に徹した。

あるいは、逆に撃たれて怪我をした兵士を担いでトラックの影に運んでいったり。


「誰か弾持ってこい! 誰かー!」

クローンの一人が銃火器をぶっ放している時、そのすぐ後ろに着いていって弾込めを手伝ったりもした。

そんなことをする度に、クローンの兵士たちは驚いた顔をしてソノイの顔を振り返ったのだった。

相変わらず、クローンたちの顔はマスクで見えなかったが。

「あ、に、人間が?」

「弾、持ってきました!」

「んん……ッ、ええいチクショウ!!」

受け取った弾をマガジンごとうけとって、アンビギュートと言われるクローンの兵士はまた猛烈に重機関銃を撃ち始める。

傍らに倒れて肩で息をしている兵がいたので、肩を貸して地面で拾った水筒をあてがうこともあった。


だが、クローンはソノイの腕を掴んで止めた。

「あ、あんたは……」

「何をしてるんです! さあ、はやく飲んで!」

「ぱ、パイロットだな……なぜ、あんたみたいなのがここにいる」

なぜと言われてもソノイは答えられなかった。ただ、この荒野までほとんど何も説明しないで連れてきた、バカが二人ほどどこかにいるのだ。

一人はグレイヴという大男で、ここに倒れているクローン兵士の大親分みたいな格好ですぐ近くの場所で鉄骨を振り回している。

あのバーヴァリアンと差しで徒手格闘をしているんだから、とんでもない筋肉の持ち主だ。

もう一人は、赤い肩章を右肩につけた、他のクローンとほとんど変わらない格好をしたユウヤというクローンだ。彼も戦場の、この小さな包囲殲滅戦のどこかで誰かと一緒に戦っている。


ソノイは微笑むと、小さく首を振った。

「知らない」

「気を、つけろ……ここは、じ、地獄だ。あんただって知ってたろ……ここは、あんたみたいな……綺麗なひとがくる場所じゃない……」

クローンはマスク越しに血を吐いて、装甲マスクと首の隙間から赤い液体を吹きこぼした。

ソノイは男を抱え込むと、そっとマスク越しに手を回して彼の頭を支えた。

「ぶほっ、ごほっ……あ、ありがとう」

「何か言い残すことはない?」

「……マスクを、取ってくれ」

ソノイはうなずくと、言われたとおりに男の仮面を外して脇に置いた。



彼は少年だった。

自分と歳もほとんど変わりなさそうな、黒い髪を短く揃えた純粋そうな少年だ。

細く整った顎に、小さな鼻、口元には血が吹き出ていたが端正そうな顔立ちには変わりない。

「……な、名前を教えてくれ、よ。天使さん、よ」

「ソノイ・オーシカよ。あなたの名前は?」

少年は一瞬だけ潤んだ目をしてソノイを見た。それから口元を、唇を、小さく動かして声にならない声で、こう答えた。

「……モナー、だ」

「モナーさん?」

「ああ。豚とか言っちまった……さっきは、すまなかった、な……」




少年の体から力が抜けて、モナーと名乗る一人の少年は息絶えた。

ソノイの腕の中で、少年は装甲服に身を包まれて力尽きる。しかし、銃手は一向に銃を撃つ手を弛めない。

「終わったら、次の弾を持ってきてくれ」

銃手は銃の反動で肩をがたがた振るわせながら、まったく振り返らずそう言った。

「ええ」

感傷に浸っている暇はない。最後まで残った特大のバーヴァリアンが、拳を振りあげて決死の攻勢をかけているのだ。

ソノイは銃を撃ちすぎて力が入りづらくなっている手のひらを握りしめ、黙ってうなずいた。

「いやあんたが考えている事は違う、いいかよく考えろ」

銃手はそう言うと、弾を撃ち尽くしたマガジンを投げ捨てて新しいマガジンを上部にはめる。

それからがちりとマガジンを締めると、もう一度振り返ってマスク越しにソノイをみた。

「そいつは死んじゃいない。なぜならそいつは、オレだからだ」

アンビギュートはマスク越しに言うと、再び銃を構えて撃ちまくった。

「え」

「さあさっさと次に行け!!俺たちサテロイドフォースは伊達じゃねえんだ蹴り倒すぞ!」

怪訝な顔をするソノイの顔を見ず、おそらくさっきの少年とまったく同じ顔なのだろう、銃手はマスク越しに銃を撃ちまくった。




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