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背の低い草地に砂がかかる。

低い雲のかかった空に、赤い朝焼けの色がつく。

突如、慌てた様子でクローン達が次々と輸送トラックの坐席シートに飛び込んでイグニッションキーをひねった。

エンジンに次々とパワーが入り、マフラーから黒い煙が吐き出される。この世界ではまだ、先進的な磁気駆動よりも信頼性のある内燃機関を使っていた。


「急げ! 動くんだ!」

アンビギューターと言われる、この世界特有の生き物たちは白い装甲服に身を包んでそれぞれの持ち場に駆けていく。

あるものはクローンガンを。またある者は重迫撃砲をトラックの荷台に投げ込んでいく。

ある者はトラックのチョークを外すために腕を伸ばした。シートに飛び込んで無線機のチェックを始める者もいる。

幌付きの一号車の荷台はすでに白づくめの歩兵達でいっぱいだ。二号車、三号車がそれぞれ黄色い車止めチョークを外し終わって砂地を走って行く。


「私たちの乗る車はもっとずっと後だ」

朝焼けの基地から次々とトラックの車列が走っていくすぐ横で、アンビギューターと呼ばれるクローン兵士の内の一人が話した。

ソノイは不安そうにその男の顔を見あげる。身長178センチのこの巨漢の指揮官はヘルメットを脇に抱えると、不意にがははと笑ってソノイを振り返った。

「荷物は全部持ってきたな。今からお前はもうお客様じゃない。これからは、一人の兵士として戦ってもらう」

「ハイっ、ですがエート……」

「教官だ」

グレイヴはそう言うと、日焼けした顔でにやりと笑ってソノイの顔を見下ろした。

「部隊の設置式はまだ済んでいないが。すでに、部隊の編成は終了した。お前が、我がサテロイドフォースが人間と共に戦う部隊の最初の一人だ」

「私が!?」

「そうだ。今まで人間はいなかった。そしてコイツが……」

青い縦筋入りの装甲服を着たグレイヴが振り返って、呼吸器を付けた一回り小さい兵士を親指で指さす。

「コイツがこの部隊の本部付きの副官となる。一、二度すでに死んでいる再生兵士だが初期型だ、そんじょそこらのクローンとは中身が違う」

「光栄です、サー」


低くくぐもった声で、ユウヤと名乗るクローン兵士はマスク越しにノイズの掛かった声を上げる。

次々にトラックが走っていく中、最後尾の一台がややルートをそれてユウヤとグレイヴ、ソノイの脇にやってきて止まった。


「迎えに着ました」

ユウヤ少尉の着ている、無骨で無機質な耐弾装甲服とまったく同じものを着ている知らない兵士がトラックのドアを開ける。

見あげるほど高い位置にある坐席から身を乗り出して、名前も知らないしそのバックボーンも知らないただの白い兵士はグレイヴ大佐に敬礼した。

「ごくろう。ああソノイ少尉は前だ」

「は?」

装甲服だけは同じでも、ヘルメットを被らず顔を出しているグレイヴは仕事の一環というような顔でソノイを振り返った。

「これから先は長いぞ。荷台も空いているが、しばらくは前に座っていてもいい」

「結構です!」

「ほう?」

ソノイはグレイヴの心遣いにすこしカチンときて、明らかにふくれっ面をして横を向いた。


「さっき、もうお客様扱いはしないって言ったじゃないですか。私は軍人です。例え貴方たちとは違っても!」

「ほう、はははそうか。ではユウヤ少尉」

「はい」

赤い肩章を付けた、呼吸器を付けている一段背の低い男が答えてヘルメットを揺らす。

「彼女を頼む。どうやら少しはできる人間のようだが、周りにあまり変なことを言わせるなよ」

「イエッサー、お任せください」


青いラインの入った巨漢はそのままトラックの助手席に乗り込み、ユウヤはソノイを連れてトラックの荷台へと走って行く。

留め金を引かずに煽り戸を乗り越え、ソノイは荷台に乗り込む。すぐにソノイは振り返ってユウヤを引き込もうとしたがユウヤ少尉は待たずに荷台に乗り込んできた。


トラックのすぐ脇を、ミサイルを積んだ逆関節型の二脚メカが数台駆けていく。

この前に見たライドウォーカーのもっと大きな物だ。見とれている内に、トラックは走りだした。

ソノイは荷台でバランスを崩し、勢いよくこけた。




全体的にこの世界は荒れているんだと思う。荷台から覗く世界が少しずつ明るくなっていき、地表は今までの闇からゆっくりと顔を覗かせて本来の表情を見せるようになる。

ばらばらと荷台を覆う幌に細かい小石がぶち当たり、隣を二脚型のガードメカが疾駆していた。


荷台には脇と奥にそれぞれ一列ずつ歩兵が乗れるよう布と簡単な鉄パイプで組まれた担架が敷かれており、兵士はそれぞれぎゅうぎゅう詰めになってそれぞれガンを持って押し黙っていた。

一番出入り口に近い場所に、ソノイは座っている。他の皆は装甲服を着て、どれもだいたい同じような服装で。

目も見えず顔全体も分からず、黙ってそれぞれ銃を持っている。ソノイは自分だけが、いつもの制服とダッフルバッグを持って乗っているのに場違いな感覚を感じた。

「あのー、ユウヤ少尉」

「なにか」

幸運にも隣のシートに座ったのは見覚えのある赤い肩章のあの男、ユウヤである。



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