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フロムサテロイドミッション~基地外周を歩くオリエンテーション~
赤い空の元、耳障りなサイレンが基地中に鳴り響く。
海軍仕官の制服を着て、ダッフルバッグを肩にかけるソノイ・オーシカ少尉は正門前で呆気にと
られていた。
赤い夕日が、背中からソノイ少尉を照らす。
「今から貴女には、基地を一周してもらいます」
同じく夕日の光を受ける傷だらけの耐弾装甲服を着た、クローン兵士を名乗るユウヤ少尉は鉄仮
面を傾けた。
男は車を降りると、同じようにソノイにも車を降りるよう指で合図した。
「……は?」
「唐突で申し訳ありませんが、これも部隊長の命令なのですマム」
野太く低い声のクローンユウヤはそう言うと、まったく申し訳なさそうな顔をせずに顔をソノイ
少尉へと向けた。
「なにせ、オリエンテーリングですから。それに時間もありません。目標は、一時間以内に基地
外周を通る道を歩いて貰うこと。先導は、私がしますマム」
「ちょっと待って時間ってなに。その前に少尉、まだ私の質問にぜんぜん答えて貰ってないわよ
」
「質問とはなんですか」
「さっき言った質問よ!」
ソノイはイライラした様子で、この不気味で妙な白いクローン兵士に指を突きつける。
「この基地に着く前から、何かおかしいと思ってたのよ。クローンってなに? それにあなた少
尉でしょ? なんで私にそんなに命令するの?」
「今ここでお話しできることはありません、マム」
そういうとクローン兵士のユウヤは、同じくクローンから見たこともない巨大な銃を受け取って
、そのままゴーストソノイに投げ渡してきた。
慌てて投げられた銃を受け取り、きつい目をしてクローンを振り返る。
「これが、この基地の人たちの歓迎の仕方なのねっ」
「今後、貴女と私はペアを組みますマム。当基地イントゥリゲートは、対バーヴァリアン紛争の
最前線基地です。くれぐれも遅れないように」
「上等じゃないのよ!」
ゴーストソノイは受け取った銃のコッキンを引くと、ガシャリと大きな音をさせて地面に銃床を
つけた。
「じゃあ貴方には、歩きながらいろいろと聞かせて貰うわ!」
「どうぞマム。質問は手短に。では、各員配置に着け。オリエンテーションを実施」
ユウヤ少尉はそう言うと、覆面越しに周りの兵士たちに指と手で合図した。
他に立っていた装甲服の兵士たちが黙って頷き、それぞれどこかに向かって歩いていく。
心なしか、他の兵士たちとユウヤ少尉のスーツの装飾が違うような。赤い肩章に、特徴的な縦筋
の色の線が体中に走っている。
ユウヤ少尉は振り向くと、見えない顔でソノイを見て微笑んだ。
「準備はいいですか。オリエンテーション開始です、ソノイ少尉」
呼吸音混じりの低くくぐもった声で、ユウヤ少尉が覆面越しにソノイに言う。
ソノイはごくりと、唾を飲み込んで口元を緊張させた。
時刻は午後4時過ぎ。
クローン用の超大型突撃小銃を持って歩き始める二人の様子を、遠く監視塔の上から覗く数人の
クローンたちが見ながらなにか囁き合っていた。