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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
最終章『Brave side』
99/104

(98) ~ 到着

「うわあ……!」


 馬車の中から幌のはしをめくって、王都の町並みを見た美鳥は歓声を上げた。

 木の柱や様々な色の煉瓦を組み合わせた、色とりどりな住宅街。地球の観光雑誌に載っていた西洋の町と似通った雰囲気のなか、美鳥は宙を指さしてシャナに尋ねた。


「あの、ふわふわしてる丸いのは何?」

「あれは魔法灯です。指定した区域を巡回していて、日が落ちてきたら発光するんです。町中にあって、あれが開発されてから王都の夜間の犯罪が激減したと聞きました」

「魔法の明かりかあ……。あっ、あれ何? 白い線がぴかぴかって」

「ああ、あれは浮遊船の空路だよ。主要な施設や通りまで自動で運んでくれる船……あ、ほら、飛んできた。馬車が無くても、町の端から端まですぐ移動ができるんだよ」

「路線バスみたいなものだね。え、うわ、なにすごくきれい! 噴水?」

「噴水と水晶を組み合わせた掲示板ですね。町で行う行事や魔法学校からのお知らせに、商店街に連なるお店情報などもあれで確認ができるんです。あれはこの町でも一番大きいものですね」


「すごいすごい、魔法の国、すごい!」


 町中にあふれる魔法の産物たちに、美鳥は始終目を輝かせていた。看板の周りで花火のような光をはじけさせてアピールするカフェ、小ぶりな杖を振って出てきた煙の魔法で遊ぶ子供達、ベランダに干した洗濯物を指さして何事か呟き一瞬で取り込んでしまった主婦。

 生活の様々な場所に、魔法があった。それはどこか、科学に囲まれていた地球の文化を思い起こさせ、美鳥は少しだけ寂しさも感じていた。


「まあ、これらの魔法のほとんどは、魔法学校を経由して図書塔の賢者と、そのご学友が広めたものだと言われていますけどね。昔はこうした魔法具は、魔術師の研究や実験の道具ばかりだったそうですし」

「へえ~、賢者様って発明家でもあったんだ」


 カップルの補足に相づちを打ちながら、美鳥はふと、町の雰囲気が変わってきたことに気付いた。やがて凝った装飾が彫り込まれたアーチの前にやってきた一行の馬車は、アーチの前に立っていた門番兵に止められた。


「こちらは上級区画となります。許可無き者はこの門をくぐることは許されません」


 一切表情を変えずに告げた兵に対し、御者台に座っていたレイヴンは懐から書状を入れた筒を取り出すと、それに施された細工、大神殿の紋章を見せた。


「王都入場時に審査を受けた、リンブルーリア大神殿からの使者である。確認を」

「は、はっ」


 駆け寄ってきて筒を受け取り、紋章を確認した兵はわずかに顔をこわばらせた。すぐにレイヴンにそれを返して「しばしお待ちを」と告げると、アーチの側まで戻って、その壁に埋め込まれている緑色の水晶玉に向かって何事か呟き始めた。

 すぐに確認は取れたようで、彼は一行に振り返るとぴしりと音を立てそうな勢いで姿勢を正し、深く一礼した。


「申し訳ございませんでした。どうぞお進み下さい」

「ああ」


 レイヴンは短く答えると、頭を下げたままの兵から目を離して馬車を進めた。


「ミドリ様、ここから先はあまり大きく幌をめくらないで下さいね。貴族たちや高官たちの住む区画ですから」

「わ、わかった」


 がらりと空気の変わった上流区画を見ようと幌に手をかけた美鳥だったが、シャナにたしなめられて大人しく座り込んだ。

 しばらくすると、また馬車が止まって外から声をかけてくる者がいた。すると、レイヴンが幌の中へ体を半分突っ込んで、表情を変えぬまま一向に告げた。


「ミドリ様、城門前へ到着しました。ここからは馬車を預けて、歩いていくことになります。他の者も用意しておけ」


 とうとう、オーデント王宮へやってきた。




※ ※ ※




 馬屋番だというものたちに馬車と繋いでいた馬を任せ、城勤めの使用人達に王宮内へ案内された一行は、広々としたエントランスホールを抜け、だいぶ先に進んだところにある応接室へ連れてこられた。


「すっごい……おしろ、すっごい」

「ミドリ様、大丈夫ですか? 飲み物を何か頼みましょうか」

「あ、えーと、いいのかな」


 ふかふかのソファにまで驚いていた美鳥だったが、自分と似たような、しかしより洗練された格好をした女性……王宮勤めの侍女たちが手早く用意したお茶と菓子に目を輝かせる。


「美味しそう! 食べていいん、ですよね?」

「どうぞ。どれも城に務める菓子職人たちがよりをかけた一級品でございます」


 美鳥のはしゃぎようを見て、穏やかに笑って答えた侍女の言葉に、さらに期待が高まる。十種類近く用意された片手でつまめる程度の菓子を次々味見して、美鳥はぷるぷると震えた。


(異世界に来て、一番美味しいものに巡り会ったよ……!)


 合間にお茶を飲んでは菓子をつまみ、馬車での旅の疲れを癒やした美鳥であった。

 と、案内されてしばらく経った頃、部屋の扉が控えめに叩かれた。


「失礼いたします。リンブルーリア大神殿からの使者の方々へ、オーデント国王による挨拶の仕度が調いました。玉座の間まで、御案内いたします」


 そうして告げられた内容を聞き、美鳥は一瞬前に口へ放り込んだプチシューのような菓子を危うくのどに詰まらせそうになった。慌ててお茶で流し込み、緊張した様子でレイヴンを見る。

 美鳥に向けて頷いたレイヴンは、扉の方へ向き直ると是と答えた。

やっときたあああああああああああ。

……だがしかし、ヤツはまだこねえ……orz

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