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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
最終章『Brave side』
98/104

(97) ~ 賢者のうわさ

 美鳥は一人、馬車の中でそわそわと落ち着かない様子で座り込んでいた。それを隣で見ていた茶髪に茶色の髪の、平々凡々な顔立ちの青年はくすりと笑う。


「そんなに気になりますか、外の様子が」

「だ、だって、国境を越えたときはそんなに気にならなかったけど、オーデントの王都に近づいてきたらなんか、熱気というか、そういうのがさ!」

「まあ、リンブルーリアの町と比べれば確かに、ヴィストやオーデントの中心都市は賑やかでしょうねえ。ああ、懐かしい、僕はこっちの育ちなもので」

「へえ、カップルさんってオーデントの人なんだ」


 青年の方へ顔を向けた美鳥は、少し驚いた様子でそう返した。

 そう、この雑踏に紛れてしまえばすぐ見失ってしまいそうなほど、没個性な外見を持っている青年こそ変人道化カップルである。美鳥たちの旅に同行してからも派手な道化の衣装を着続けていた彼だが、さすがに王都入場のための審査で目立つわけにいかない、と主張したレイヴンたちの意見をあっさり受け入れて平民の服に着替えていた。するとどういうわけか、道化の時の慇懃無礼に聞こえる口調もなりを潜めてしまった。

 そんな、印象に残らない一般人になってしまったカップルと二人、美鳥は馬車の中で審査の終わるときを今か今かと待っていた。フラトールを出発しておよそ半月。道中は馬車の揺れ以外大した障害もなく、一行は実にあっさりとオーデント王都に到着した。

 カップルと会話を続けようとした美鳥だったが、幌の一部がめくられたのに気付いて、そちらを振り返る。すると、中をのぞき込んできたハロードが、右手で小さな丸を作ってみせた。


「大神殿で預かった書状の確認がとれたみたいです。このまま王宮へ向かいますよ」

「お、王宮!?」

「そりゃあそうでしょう。ミドリ様が次に会わなければならない御仁とは、王宮にて仕え人をしているのでしょう?」

「あ、そっか」


 ここまでの道中で、美鳥たちの大まかな旅の行程も知ったカップルが答えると、美鳥は納得して頷いた。そして、フラトールで一瞬会うことの出来た、『彼』の姿を思い出す。


(あの人に、賢者様に会えるんだ……)


 喚ばれた自分がやるべきは、殺すことでは無く救うこと。

 そう、教えてくれた人。美鳥が前を向けるよう、促してくれた人。


「……なんか、どきどきしてきたなあ」

「僕も楽しみですよ。伝説の一つとして語り継がれている、図書塔の賢者に会えるかもしれないなんて!」

「え、伝説なんてあるの?」

「そりゃあ二百年も生きている方ですよ、伝説の一つや二つありますでしょう。まあ、図書塔にこもるようになってからは、半分怪談じみたものが多いですけれども」

「か、怪談……」


 三柱たちの言葉や、賢者という呼び名からして、聡明な人格者を思い浮かべていた美鳥だったが、ふと『あのとき』目にした青年の態度を思い出し、考え直す。


(ひょっとして、マッドサイエンティスト、みたいな、結構きつい性格の人、だったり、するのかなあ……魔法でいろんな実験とか……ま、まさか人体実験なんて!? してない、よね!?)

「……ミドリ様の百面相は面白いですねえ。やっぱり、皆さんについてきて正解ですね」


 一人想像を膨らませて、おろおろしている美鳥を眺めながら、カップルは実に楽しげにクククと笑みを浮かべるのだった。

短いですが、今日はこんなもんで。

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