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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
最終章『Brave side』
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(91) ~ はじめての戦い【前編】

お久しぶりでございます! 生きてました。

執筆自体は多分一ヶ月くらい休んでたのかな……? 待って下さってた方、ありがとうございます滝涙ものですマジに……。

とりあえず、書き上がった分だけ投げ込んでいきます。

「さてさて、じゃれている暇はありませんよ」


 カップルの常人とは思えない身のこなしに唖然としていた一同だったが、彼の言葉にはっと我に返る。カップルが見つめる先で、先ほど咆哮を放った異形のものがのそりと起き上がった。


「レイヴン様、これを!」


 慌てたハロードは盾をレイヴンに押しつけると、カップルよりも前に出て自身の盾を構える。剣を握る手はわずかに震えていたが、ここで引くわけにはいかなかった。

 サイラースはゆっくりと両足で立ち上がると、おもむろにしがみついていた門の格子を握り直した。そこへぐっと力を込めると、格子は飴細工のようにあっさりと歪んでしまい、人一人がちょうど通れる大きさが出来てしまった。そのあまりの怪力に、一同は思わず一歩引く。


「……これは、あの手に捕まったらねじり殺されそうですねえ」


 盾を構えながらもすでに逃げ腰なハロードの言葉に、カップルも大いに頷いた。


「幸い今は動きが緩慢ですからね、早いところ、罪を犯す前に片付けてしまいましょーか」

「えっ、あの、待って下さいよ。あの人、えっと、まだ人間、ですよね? こ、殺しちゃうんですか!?」

「ミドリ様……」


 元いた世界と比べて、あまりに非現実的な光景に麻痺していた感覚が一瞬で戻ってきた。ぶるりと震える美鳥の言葉に、口をつぐんでしまった側付きたちに代ってカップルがあっさり答えた。


「人間だったモノですよー。今はもう異形のものと言って過言ではありませんよ。完全に変化したら、あれはただの殺戮の権化と成りはてます」


 彼の言葉に、美鳥は『そのとき』がくるまで考えないようにしていたことを思い出す。

 美鳥がこの世界に呼ばれた意味、倒すべき敵について、一度だけ水の巫女が語ってくれたことを。


『異形のものが現れるそのときは、オーデントの賢者にしか予知できないと言われています。が、あれは自然にこの世界へ生まれ出でるものではないのだと、かつてその賢者が我々に伝えました。あれは、私たちの敵の正体は』


 人間なのです。


 その答えを聞いて、美鳥は呆然とした後取り乱した。そして、叫んだのだ。

『私は人殺しをするために、呼ばれたわけ!?』

 混乱し暴れる美鳥を、さらに強い力で抱きしめてきたファーネリアは、美鳥の叫びを聞きながら、しかし最後にはこう告げた。異形となったそれは、もはや人ではないのだと。

 そのときの彼女の、目が。


「ミドリ様!」


 シャナの叫び声に、美鳥ははっと我に返った。慌てて異形のものを見れば、先ほどの怪力で覚醒しつつあるのか、みちみちと嫌な音を立てて変形していく。肌の色は次第に褐色から赤黒いものへと変わり、獣じみた爪と牙が生え始めた。どんどん質量を無視して膨張していく異形のものに、美鳥は思わずシャナの服を握りしめた。


「ゴオアアアアッ!」

「神官殿、結界を頼みますよ! これ以上人がくると面倒ですからねえ!」


 異形のものが門の残骸を殴り飛ばして吼えるのと、カップルが指示を出すのは同時だった。何とか彼の言葉をとらえたシャナは、そっと美鳥の手を握りしめながら、ふところから手のひらサイズの結晶を取り出した。それを手にしたままシャナが何事か呟くと、二人を中心にした光り輝く球体が出来上がった。一拍おいてそれがはじけると、教会周辺をぐるりと囲むようにうっすらと黄金色に輝く幕が現れた。


「とりあえず、人は近づいて来れなくなったかな……」


 結界を確認したハロードは、改めて異形のものに目を向ける。が、その視線の先にはすでにそれはいなくなっていて。


「え?」

「よそ見厳禁でぇすよお!」


 半分裏返ったカップルの声と共に、ハロードは背後から思い切り突き飛ばされ、前のめりになった。慌てて体勢を整えようとしたところで、頭上から鋭い風きり音が聞こえてきた。


(もしかしなくても九死に一生!?)


 硬直しかけたハロードは、しかし重力に身を任せ倒れ込むと盾を投げ捨てて転がった。剣を握り直しながら振り返れば、いつの間にか異形のものは一行のど真ん中に立っていた。


「ゴゥウ……」


 異形のものは飛び出した目玉をぎょろりと回し、周囲を囲む結界を睨み付ける。すると、その視線がある一点で定まった。


「ひっ」


 目があったシャナは、思わずその口から悲鳴を漏らす。それを合図に、異形のものは動き出した。


「させるかあああ!」


 シャナに向かって放たれた一撃。鉄の扉を吹き飛ばすほどの威力を持ったそれは、鬼神のごとき表情を浮かべたレイヴンに阻まれた。真横から振り抜かれた異形のものの腕に、盾をぶつけるように防御しようとしたがその力の差は歴然で、次の瞬間にはひしゃげた盾が宙を舞った。


「レイヴン様!!」


 押しのけられ、美鳥とともに後ろに倒れ込んだシャナが叫ぶ。盾と共に吹き飛んだレイヴンは空中で回転しながら地面に叩きつけられた。盾を持っていた左腕は明らかに折れており、回転が止まると何度かびくりと震えて動かなくなった。

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