(09) ~ ティストンの家族
ティストンの家は、なかなか居心地がよかった。彼の家族も、彼が後見人になり、その入学候補生が家にやってくるということをさほど拒否しなかったのもありがたい。妻であるリリカは、オズの顔を見てきゃーきゃー騒いでしまったほどだ。
子供はオズ(の見た目年齢)よりさらに幼い少年と、歩行が慣れてきた様子の少女だ。それぞれアルフとルリカといい、ティストンがいうにはアルフにも魔術師になる才能があるのだという。アルフ自身も興味を持っているようで、オズがなんとなく、こっそり能力を確認してみると、魔術師と言うには物足りないティストンや才能ゼロのリリカの子供のわりに、魔力も多く持っているということがわかった。
「オズ、今日は父さんとなにしたの?」
「おずー、ぴかぴかして! ぴかぴか!」
そんな彼らも、最初のうちこそ急にやってきたオズに警戒していたが、父親とともに魔法について学んでいく彼を見て、かつ彼自身の努力も功を奏して、気軽におしゃべりをする中にまでなれた。ちなみに、ルリカがぴかぴかと言うのは光を放つ魔法で、光源や戦闘における目くらましとして使われる基本中の基本である。
「ぴかぴかはまた今度。今日は水の魔法をいろいろ教わったよ」
ある日の昼食を食べた後、休憩時間に二人に詰め寄られたオズは、午前中にティストンから習った水で様々なものを形作る魔法を見せてみた。最初は球体だが、そこから鳥、蝶、猫、こびとなど、節操なしにいろいろなものを作っていく。
「「わああああ!」」
アルフは指にとまった鳥の胸に軽く指を入れて、本当に水であることを何度も確認したりしていたし、ルリカは蝶を頭にとめて髪飾りのようにしてはにかんでいた。そうやって、幼い二人の相手までしてくれるオズに、ティストンもリリカも助けられていた。
「それにしても、一度にこんなに作れるなんて……オズくんすごいのねえ」
食器を洗いながら、濡れた食器を見事な連携で磨いていく水のこびと達を見て、リリカは笑みをこぼす。当然、このこびともオズがアルフたちの相手をしながら作り出しているものだ。食後のお茶を飲んでいるティストンも、彼を褒めつつ苦笑を浮かべる。
「まあ、成長が早すぎて悪いということも、ないんだけれど。今のところ魔力の暴走なんていう事態も起きそうにないぐらい、オズ君の魔法は安定しているしねえ」
「今日はこのあと、歴史でも教えるの?」
「概要だけだね。魔法学校に入る前に、常識として知っていそうなことをいくつか……。この調子だと、入学試験がくるずっと前に五大元素の魔法は全部使えちゃいそうだなあ。基礎魔法は完璧だし」
オズに魔法を教えながら、ティストンは妙な考えを捨てられずにいた。盗賊のせいで記憶の一部を失ったとして、オズは落ち着きがありすぎるのだ。おまけに、こちらがかいつまんで教えた魔法を、たった一度で行使してしまう。それこそ、前々から使い方を知っていたような様子で、知らないことを知ると言うより、知っているものがなんと呼ばれているかを確認しているような、そんな授業になるのだ。
才能があるというか、そういう問題でもなく、オズはとっくに魔法を学んでいたのではないのか……。なにかの理由があって、魔法学校に入りたいために、後見を得たいがためにこのようなことをしているのではないのか。
「オズ、もっと大きい鳥できる!? 僕が乗れるくらいの!」
「乗るのはだめー。危ないから。それとも水の鳥の中で、ぶくぶくおぼれたい?」
「こあい! おず、それこあい!」
「じゃあ、じゃあね!」
きゃっきゃとじゃれる三人を見て、ティストンは頭を振る。
……ただの考えすぎだ。きっとそう。
そうして、魔法学校入学試験の日がやってきた。