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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
最終章『Brave side』
86/104

(85) ~ いざ旅立ち

 神官たちの仕事場や、信者のために開放されている聖堂と神殿関係者の居住区の境目にある広間で、旅装束に身を包んだ美鳥たちは見送りに来てくれた巫女たち、事情を知る神官たちと向かい合っていた。


「それではミドリ様、お体を壊さないよう気をつけて……」

「うん、ファーネリアさんも元気でいてくださいね」


 そっと両手を取って美鳥に見送りの言葉をかけるファーネリアに、美鳥も笑顔を返す。そんな彼女へ、レイネと風の巫女ミリアンナも近づいて、それぞれ何かを手渡してきた。


「?」

「これ、なるべく豪華に見えないようにしてるけど、あんまり人目につかないように隠しておきなさいよ」


 そう言ってレイネが美鳥の首にかけたのは、クリーム色の小さな木の玉を連ねたネックレスで、玉の中に灰色がかった石のようなものが三つほど混ざっていた。よく見ると、それぞれうっすらと巫女たちの色……青、赤、緑色をした縞模様が浮かんでいる。


「リンブルーリアでも滅多に採れない、神石の欠片を加工したものよ。ほとんど原石のままだから、よく見ないと気付かれないと思うけれど……これがあれば、神々との交感もだいぶ楽になると思うわ」

「それで、あたしからはこれを、ね」


 説明を終えたレイネの次に、栗色の髪をゆるく束ねたミリアンナが、ファーネリアの握る緑の手を片方引き抜き、ネックレスに使われているのと同じ木材で出来た腕輪をはめた。


「こっちは、外から見たら何の変哲も無い木の腕輪だけど、内側に守護の魔法を刻んであるの。いろんな形で、ミドリさんのことを守ってくれるはずよ。ただ、あなたの持っている力を利用して発動する魔法だから、あんまり使いすぎたら危ないからね」

「……では最後に、わたくしからはこちらを」


 美鳥が二人から渡された装飾品を目を丸くして眺めていると、ファーネリアが無言で進み出た神官の差し出してきた細長い瓶を手に取った。瓶の中には、うっすらと青みがかっている液体が半分ほど入っており、きらきらと輝くそれを受けとった美鳥は「わあ」と声を上げた。


「これ、綺麗ですね」

「蒼の間の祭壇から汲んだ聖水です。水の神の力を十分に含んでいますから、もし力が足りなくなって意識が遠のいたときなどは、これをほんの少し口にして下さい。けれど、決してミドリさん以外が飲んではいけませんよ」

「え? 私専用の回復アイテムなの?」

「ええ、わたくし自身も、水の神からこれに触れることを許されたことは、今回のことだけです」


 美鳥は少し首をかしげると、もう一度聖水の入った瓶を見つめた。宝石のように美しい聖水だったが、確かにこれを手にしたとき、神官もファーネリアも表情がどこか硬かった。

 巫女でも、触れることを許されない聖水。異世界から来た美鳥しか、手にすることができない。


(なんで、触ったらだめなんだろう……聖水ってぐらいなんだから、ひょっとしたら『異形のもの』にも効くかもしれないのに)


 そう思いつつも口には出さず、美鳥は素直に頷くと瓶を割らないよう慎重にカバンの中へしまい込んだ。そして、くるりと振り返って仲間たちを見る。


「さて! みんなはもう大丈夫? 挨拶とかしてきた?」

「はい、師匠や先輩たちに、旅立ちのことはきちんと伝えてきました」

「すでにそういったことは周りに伝えておりますので、問題ありません」

「僕も、家族とかにちゃんと報告しておいたから大丈夫ですよ」


 それぞれが頷くのを確認した美鳥は一度頷くと、もう一度巫女たちに向き直り、頭を下げる。


「今までよくしてくれて、ありがとうございました。これから……私が力になれることって、どのぐらいなのかまだ想像つかないけれど、できる限り頑張ります。で、終わったらまたみんなでちゃんと帰ってきますね!」


 明るく言った美鳥は、姿勢を正すと聖堂の方へと続く扉へ向かった。先回りしていたハロードとレイヴンが扉を開き、彼らに促されるまま美鳥とシャナは向こう側へ歩き出す。

 そのまま四人全員が外へと出て行き、扉が閉じられてしばらくしたあと……ファーネリアは深いため息をついた。


「ミドリさんはこの世界がどういったものなのか……それを知って、立ち続けてくれるでしょうか」

「立ち向かってくれなかったら、ご神託にあった滅びが襲ってくるだけよ。でもまあ……せめて、彼女だけでも帰してあげたいんだけどね」

「三柱のうち誰も、彼女の帰還のこと、何も言ってくださらないのよね……そんなの、あまりに身勝手すぎるわ」


 レイネとミリアンナも暗い表情で、世界の命運を握ることとなってしまった異世界の少女を想う。

 このまま人が滅ぶなんて、想像もしたくない。だからといって、世界すら違う人間にその責任をすべて押しつけようなどあまりに傲慢では無いか。

 しかし、すでに状況は動き出している。残された彼女たちは、ただ神殿の最奥で、少女の無事を祈るほか無かった。

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