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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
最終章『Brave side』
85/104

(84) ~ 魔法の国の偉人

 美鳥はきちんと畳まれた学校の制服を見下ろすと、ふうと息を吐いて小さく布で包んだ。大神殿で生活をしている間こそこれを着ていても問題なかったが、大神殿の外へ出れば何があってもおかしくは無い。制服も本当ならここで処分すべきだと言われていた。衣服というものは、それをまとう人間がどんな存在であるかを如実に表す。見たことも無い服装で町を歩けば、必ず注目を浴びてしまう。

 だが、美鳥はどうしても元の世界に繋がる手がかりの一つを捨てることが出来なかった。そしてそれを、仲間たちも認めてくれた。


「シャナ! 私の荷物、これでいい?」

「えーと、はい、ちゃんとまとまってますね。旅装束もお似合いですよ、ミドリ様」

「ありがと、シャナの神官服も、なんかすっごく動きやすそうになったねえ」

「はい、今まで着ていたのは神殿とか施設でのお仕事用で、こっちは巡礼用なんです。動き回っても大丈夫なのと、服の陰にいろいろと魔法陣を書き込んでいるので、ちょっと魔法が強化されるんです」


 すでに準備を終えて、美鳥の荷造りを手伝っていたシャナは、ぎゅっと自身の杖を握りしめて目線を上に向けた。


「わた、私、頑張りますね! ミドリ様の救世のお手伝い、精一杯させていただきます!」

「救世って……まあ、確かにそうらしいけれど」


 美鳥は自分の耳にも入り始めてきた自身の二つ名を思い出し、頭を抱えた。三柱の巫女と並んで神々の言葉を聞くことの出来る、救世の巫女。

 イタかった。とりあえず全身がかゆくなった。


「にしても、あっという間だったなあ。あ、今更だけどこっちの旅ってどんな感じ? ひょっとして、馬車とか?」

「え? ええ、オーデントの王都までは、一般馬車を利用して移動することになります。大神殿にあるものでは、ちょっと目立ちすぎるので……。なるべく目立たないように旅立てなんて、変なお告げですよね」

「いや、それに関しては私も同感だと思うよ。シャナたちも、まだ何にもしてない私に期待するぐらいだもん。大神殿のお墨付きをもらってる今の私がふらふらと出て行ったら、『異形のもの』に襲われたことのある人とかがいっぱい近づいてきて、大変だろうし……。まだ、どうやってそいつらをやっつけるのかも分からないし」


 美鳥の言葉に、シャナは渋々ながら頷いた。だからこそ、美鳥の身の回りを守るのは今のところシャナ、ハロード、レイヴンの三人だけとなっているのだ。大神殿の外へ出れば、また道を共にする者が現れるらしいが、その細かいところまでは教えられなかった。

 改めてメンバーを考えてみる。今のところ、戦力としては数えられない美鳥を守るために騎士二名と治癒魔術師一人。どう考えても人手が足りない。が、のちのちを考えるとうかつな人間を引き入れることはできない。


「……これから仲間になる人って、どんな方がいるんでしょう?」

「まあ、水の神様の言葉だと、オーデントで必ず一人は加わるっぽいけど」

「え、そうなんですか?」

「うん、図書塔の賢者って呼ばれてる人らしいよ」


 中身が詰め込まれた鞄を背負って部屋を出ながら、そう美鳥が口にすると、どさりと何かが落ちる音が耳に入ってきた。音のした方を向けば、足下に持参の荷物を落として妙な表情を浮かべたハロードと、いぶかしげな様子で彼を見るレイヴンが壁際に立って待っていた。


「お待たせ。で、ハロードは……どうしたの?」

「…………えーと、図書塔の賢者が、仲間になるんですか?」

「ええ、そう神様から言われたし、オーデントに行って最初に会いなさいっていわれたのも、その人なんだよね」


 そうすると、ハロードは一瞬天を仰いだ。彼の反応に思わず顔を見合わせた三人だったが、もう一度、彼を見つめる。

 三人の視線を集めたハロードは、あー、うー、と小さく唸っていたが、やがてため息と共に話し始めた。


「いえ、その、ミドリ様は図書塔の賢者について、どのくらいお聞きになりました……?」

「え? いえ、ファーネリアさんから王宮のどこかからずーっと出ないでいる人だってことぐらいで。ハロードは何か知ってるの?」

「はあ、なんと言いますか、僕のご先祖にですね、その人と魔法学校で同期だったという人の記録が残ってるんですよね」


 その言葉に美鳥は、ん? と首をかしげる。


「……ご両親や、おじいちゃんおばあちゃんじゃなくて、ご先祖?」

「ええ、僕はこうして、神教の祝福を受けて神殿騎士になりましたが、ご先祖の方は魔法に明るかったらしいんです。オーデント王家から称号も授かっていて、確か未来、という意味のものだったかな? 僕の祖父の代で、受け継げる人材がいなかったということで返上されたんですが……その『称号持ち』の手記に、こう残されていたそうです」


 その一、オーデント王宮の図書塔に軽い気持ちで向かうべからず。

 その二、図書塔の管理者に目をつけられるべからず。

 その三、どーしても気になるというなら自己責任で。

 追記、悪い人じゃないけれど、いろいろ常識を壊されると思うから覚悟していくといいよ。


「……などなど、まあ、すごい人らしいです。なによりその手記、もう百五十年以上前のものなので、そこから考えるとその賢者って呼ばれてる人……」

「……百五十歳、以上?」

「ご先祖が手記を書かれたのが晩年ってことらしいので、それを考えると二百歳近いのでは……」

「ちなみに聞くけど、こっちの世界の寿命ってどのくらい、なのかな」

「七十歳でもうご長寿です。もっとも記録に残っている限りで長く生きられた方でも、確か八十半ばだったと思います」


 レイヴンの冷静な解説を最後に、四人は沈黙した。

 一体、オーデントにいるという賢者は何者なのだろうか……というか、そもそもまだ存命なのか?


「ま、魔法の国って……なんか、やっぱりすごそうだね」


 これから向かう場所を思い描いて、美鳥は思わずごくりと喉を鳴らした。

さて誰の手記でしょうねえ……。

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