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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
最終章『Brave side』
82/104

(81) ~ 誰かの内緒話

 この子が 喚ばれた勇者様っぽいね。


 ……まだガキじゃねえか 神様とやらも何考えてやがる。


 いや 多分君が思ってるほど 子供じゃあないと思うよ?


 はあ?


 ま、それはいずれ分かることだからね とりあえず今は様子見だけ。


 まどろっこしいったらねえな。


 そう思うなら わざわざ俺に付き合わなくたっていいのに 素直じゃないな。


 うるせー! ……あ やべ 起こしちまう!


 あーあ ばーかばーか。




※ ※ ※




(……なんか、気付いたらベッドっていうのがパターンになってる気がするなあ)


 ぱちりと目を覚ました美鳥は、わずかに気だるさの残る体を起こして頭を振った。

 ふとそこで、傍らに誰かがいたような……なにか、会話をしていたような、気がした。


「誰、が?」


 呟くも、それに答える者はいない。

 気のせいかと考えて、美鳥はベッドを抜けると窓の外を見た。ずいぶん高いところに太陽があり、ぽかぽかと空気が暖かい。きゅるりと腹が鳴ったのも聞いて、これはお昼時だろうと考えた。

 寝間着を着たまま人を呼ぶと、やってきた侍女たちに着替えの世話までされてしまうので、美鳥は一人で制服に着替え、綺麗な水を器の中に出現させる魔法具の水を拝借して顔を軽く洗った。最低限人に会う準備が出来たところで、ベッドの側に垂れ下がっている金色のひもを引っ張る。すると扉がノックされて、美鳥と同年代の侍女が一人入ってきた。


「おはようございます、ミドリ様。お加減の方はいかがですか?」

「うん、大丈夫みたいです。私、レイネとの練習中に倒れちゃって、ずっと寝てたんです、よね?」

「はい、火の巫女様が慌てて紅の間からミドリ様をお連れになって、ずいぶんと疲れておいでのようでした……。今は、ミドリ様が倒れてから丸一日経ったところです」

「そっか……心配かけちゃったろうな。あの、巫女の誰かか、シャナやレイヴン、ハロードとは会えます?」

「巫女様方は、ただいまそれぞれの祈りの間にいらっしゃるので、もうしばらくお時間がかかりますが、側付きの方々なら大丈夫です」

「じゃあ、呼んできて、よかったら一緒にご飯が食べたいですって伝えてくれませんか?」

「かしこまりました。お食事は隣の部屋に用意させますので、今しばらく、こちらでお待ち下さい」

「はーい」


 隙の無い動作で一礼をした彼女は、するするとほとんど音を立てずに退出していった。最初の内は、部屋に入るとすでに着替え終わっていた美鳥に驚いていたりする者が多かったが、以前いた世界では一般人だったから、着替えくらいは一人で出来ると答えるとなぜか少し残念そうな表情をするものが多かった。

 一人寝室に残された美鳥は、誰が最初にこの部屋へやってくるかを考えながら、もう一方で昨日交感した火の神についても考え込んだ。


(レイネや、他の巫女の力を借りなくても、神様たちとお話が出来るようになったら……ここを出て行かなくちゃいけないんだよなあ)


 でもそう簡単にできるのかな? と目をつむっていると、小さな呼び声が聞こえた気がした。


『そっちに、なにかあるの?』


 気になって、声が聞こえたように思う方向へ意識を向ける。すると、伸ばした意識の糸に誰かが触れた。


『ありゃ、これはこれは……君、昨日火のと話をしたばかりじゃなかったっけ?』


 そこで聞こえてきたのは、火の神とは違う、少年のような声をした誰かだった。


『あれ、火の神様じゃない!』

『火のなら、今は自分の巫女と話してるよ。僕の方は早めに終わらせたんだけど……ああ、紹介が遅れたね。僕は風の神って呼ばれてる存在だよ』

『……なんか、あんまり神様っぽくない話し方ですね?』


 まだ昨日話をした、火の神の方が偉そうで神様っぽかったと美鳥が素直に伝えると、風の神は盛大に笑い出した。なんというか、どこまでも人間くさい神様だった。


『うん! 最近は巫女のミリアンナにもそう言われちゃってさ! まあ僕もちょっと他より力が強いだけだからなあ。まともに話せる人も、君が来るまではミリアンナだけだったし、まあいっかなーって』

『か、かっるう……』

『あ、でも水のは火のと一緒で古株だから、君の言うところの神様っぽい感じではあるよ? ていうか、一度火のと交感しただけで僕にも繋げられるなんて、やっぱり君は本物だね……』


 くすくす笑う風の神だったが、何かに気付いたように突然声を高くした。


『ほら、君の仲間がそろそろやってくるみたいだよ。ずいぶん心配していたから、あんまり長くこっちで話し込んでないで、元気な顔を見せてあげるといいよ』

『あ、はい、じゃあまた!』

『うん、ばいばーい』


 終わり方まで人間くさい風の神の態度に、目を開いた美鳥は思わず苦笑を浮かべた。


「あれが神様って、ほんと、変わった世界だなあ……」

「ミドリ様!」


 ほぼ同時に、扉の向こうから名前を呼ばれ、入室を許可すると側付き三人がそろって現れた。が、部屋の中まで走り込んできたのはシャナだけで、男性陣は部屋の外からそーっとのぞき込んでいる。美鳥は駆け寄ってきたシャナを抱き留めると、その背中を軽く叩いた。


「心配かけちゃって、ごめんね。ちょっと疲れただけみたいだから、もう大丈夫だよ」

「よ、よかったです……! ミドリ様、お顔真っ青だったんですもん……!」


 ぷるぷる震えながら涙ぐんでいるシャナを、もう一度軽く撫でてやった美鳥は、彼女の手を引きながら部屋を出た。そして、部屋の外に立っていたレイヴンとハロードにも笑顔を向ける。


「この通り元気になったよ! で、おなか空いたので、まだご飯食べてなかったら一緒に食べない?」

「よろしいのですか?」

「わー、ミドリ様と一緒にご飯だー」

「ハロード、お前はもう少しその態度をどうにかしろ!」


 そうして始まる、いつもの二人のやりとりに、美鳥はシャナと顔を見合わせると笑みを深めた。

風の神は章にすらなりませんでした。

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