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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
最終章『Brave side』
81/104

(80) ~ 火の神

 側付きたちや巫女たち、たまに資料室の管理者である老人も交えての美鳥への授業を始めて、一週間が経過した頃だった。


「じゃ、ミドリ、今日は火の神のお言葉を聞く練習よ」

「うん……ちゃんと出来るかな。初めてだもんね」

「最初のうちははっきり言葉が聞こえなくても大丈夫! 存在さえ感じられれば上出来よ」


 その日、大神殿の奥にある部屋の内、赤々とした炎で照らされた真っ白な石で作られた場所で、美鳥は真紅の髪と瞳を持つ少女と向き合っていた。

 彼女の名はレイネといい、ファーネリアと同じように火の神の言葉を聞くことの出来る、三柱の巫女の一人である。まだ年若く、十四歳だというが、勝ち気な瞳と生命力にあふれた美貌は、年下ながら敬語を使ってしまうほどのカリスマを感じさせた。が、すぐにレイネ自身がそれを嫌がり、対等な言葉遣いを求められたのだが。

 美鳥も時間が経った今では、彼女にもファーネリアに負けないほど優しい一面があるということを理解したので、彼女の願い通りにすることに何の引け目も感じていない。


「はい、手を繋いで……ゆっくりよ」

「うん……」


 二人が行おうとしているのは、巫女を通じて神々の言葉を、美鳥自身も聞けるようになるための訓練である。

 神々の声を聞くための技能というのは、そのほとんどが生まれ持った才能に左右される。が、ただ才能があるだけではやはりだめで、神々の御心に近づくための修行をある程度行わなければならない。本来であれば、新米の神官が神々の御心に近づくため、最初だけ先達の神官が手助けをしてやるのだという。一度、ごくわずかにでも神の気配を感じられれば、それを手がかりに様々な修行を通して、よりはっきりと声を聞くことが出来るのだ。

 美鳥の場合も、神々自身が選んだ人材なのだから、才能は折り紙付きである。よって、彼女を手助けするのも、神に近しいとされる巫女ならば、より大きな結果をもたらすのではと考えられていた。


(えっと、火の神様……真っ赤な炎の体を持つ鳥……)


 事前にレイネから教えられていた火の神の姿を思い浮かべながら、目を閉じてゆっくりと力を抜いていく。レイネと繋いでいた手のひらが次第に熱くなってきて、ふわりとどこかへ飛び立った。


『……おお、聞こえるかな、召喚師よ』

『わ、女の人の声だ! いきなり聞こえた!』


 飛び立った何かが、誰かにしっかりと捕まえられたような気がして首をかしげると、脳内に穏やかな女性の声が響いた。一瞬驚きのあまり、レイネと手を離しそうになってしまったが、レイネが慌てて手を掴み直してくれたおかげで、その声が途切れることは無かった。


『えっと、あなたが火の神様、ですよね。私をこの世界に呼んだ人』

『そうさな。妾と、水のと、風のの三人で、そなたをここへ呼び寄せた』


 あっさりと会話が出来たことで、なんだかすっかり気の抜けてしまった美鳥は、いまいち相手が神だという実感が持てずにいた。


『しかし、思っていたとおりだ。こうもあっさりと妾とつなげられるなど、こと召喚に関してはやはり、「あのお方」に並ぶ才能よ』

『あのお方?』

『……いずれ、出会おう。そなたもだが、妾たちは「あのお方」にも、ずいぶんな無理をしていただいた……いくら感謝しても、したりぬ』


 自分以外にも、無茶なことを神様から頼まれた人がいるらしいと知って、美鳥はその人物に会いたくなった。


『あの、いずれっていつぐらいですか? もうすぐ、会えますか?』

『うむ、水のや、風のとも言葉をかわし、一人でも、それをこなすことが出来れば、そなたはここを旅立つことになろう。それまでの辛抱だ。あのお方は、そなたをずっと待っておられる』

『……待ってるの? じゃあ、私早く行った方がいいんじゃ』

『いや、基本はしっかりと教えておけ、と耳にたこができてしまうほど言われたのでな。基本もできないうちに来られても、叩きかえすしかできぬとまで言われてしもうた』

『き、厳しい人、なのかな』


 同情の念から一転、なにやら大変そうな人物が待ち構えているようだと思い直し、美鳥は冷や汗を流した。そんな彼女の声色から、わずかな恐れを感じ取った火の神は、そっと落ち着かせるように声をかける。


『あれほど……優しい方は、めったにおらぬよ。ただ、他に対する関心が少々薄いようだがの。……会えば、分かるはずだ』


 そこで、美鳥はかくりと膝をついた。あれ? と疑問に思ったとたん、猛烈な眠気に襲われる。


『すまぬ、そういえばまだ初めての交感だったな。無理をさせた……ゆっくり休め』


 やや慌てたような火の神の声が一気に遠のいていき、美鳥は何事か叫ぶレイネに抱き留められて、そのまま眠り込んでしまった。

あのお方といえば、あのお方です。

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