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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
最終章『Brave side』
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(79) ~ 異世界事情

 それから、美鳥はカルトア大神殿で暮らしながら、この異世界について学ぶこととなった。だが、専門的なことをずらずら並べ立てて、何年も学習に費やすようなことは美鳥も御免であったし、ファーネリアや他の巫女たちも難色を示したため、美鳥を教え子として立場を獲得しようとしていた教師候補たちは、そろって歯がみしていた。

 では誰が美鳥の教師役をするのか……三人の巫女たちと、神託によって選ばれた側付きたちである。


「さて、じゃー記念すべき一回目の授業でーす」

「わー」


 ハロードの言葉に対して、ぱちぱちと拍手を返したのは美鳥だけだった。ともにいるシャナは苦笑しており、レイヴンは眉根を寄せてため息をついた。

 四人がいるのは大神殿の一角にある資料室、その中でも読書用にと設けられた机と椅子のある空間だった。椅子に座っているのは美鳥だけで、三人はそれぞれが選んできた本を何冊か手元に置いて立ったままだ。


「それじゃまず教えるのは、地理がいいかな? 生活? 身分? ねえレイヴン様」

「……とりあえず、簡単な地理をお教えすべきだと思うが」

「よっしゃ、じゃあ地図広げますね、ミドリ様」

「あ、はい」


 我が道を行くといった風なハロードは、ずいぶん細く丸められた巻物を取り出すと、するすると美鳥の前に広げていった。広げられてもまた元に戻らないそれは、紙では無く、布で出来たものだった。


「まずは、私たちがいるリンブルーリアはここですね」


 自分の知っている世界地図とは、当然ながら全く異なるそれを見つめていた美鳥だったが、シャナの指が示した場所に目を向ける。薄く茶色で色がつけられた場所のおよそ中央部分に、ぽつんと隔離されるようにしてそれは存在していた。


「……この国って、本当にちっちゃいんだね? でもずっと昔からあるんだ」

「ええ、この土地は神代より伝わる聖域でもあって、神の声を聞く才能を持つ者が特に生まれやすいんです。小さいですがそれなりに実りもありますから、いくばくかの交易でやっていけてるんです」

「かみよって何?」


 美鳥の疑問に、一瞬三人揃って変な顔をした。が、すぐに原因を思い至って、解説する。


「すみません、ちょっとそれを人から聞かれることってなかなか無いもので……。神代とは神の代、つまり神々がこの地をお作りになった時代のことで、およそ七百年ほど前のことだと言われています。神代の終わりにオーデントが作られ、聖域が見つかったことでリンブルーリアが出来、さらに魔法の才能を持たなかった代わりに強靱な肉体を持つ者がさらに内陸へ進み、騎士の国ヴィストが出来たと」

「七百年って、案外長くないんだね」

「え?」

「そう、なのですか?」


 ものすごく驚いているハロードたちに逆に驚かされた美鳥は、自分の世界の歴史を簡単に説明した。


「私のいた世界はね、七百年どころか、何千年も前からの人の記録が残されて、伝わってるんだよ。私の故郷の国も、千年以上前の建物が残ってたりするしね。だから、なんていうかそんなに古い!って思えなくて……まあ長いことは長いけど」

「千年以上前の建物が残っている……」


 この話は彼らにとってなかなか衝撃的だったらしく、回復にはしばしの時間を要することとなった。

 結局、最初の授業で美鳥が学んだことは、この世界にある三つの国のことと、各国の主要都市、オーデントの東に広がる海域についてなど……。

 ある程度のところで食事のための休憩を取ることとなり、三人がそれぞれ自分の持ってきていた資料をまとめて片付けているのを見ていた美鳥は、ふとまだ教わっていない、三人が特に疑問も抱いていないらしい『あること』に気付いた。


(ヴィストの向こう側にも、陸地が続いてるっぽい地図だったよね……? なんで、そっちの方は触れなかったんだろ。まさか世界に国が三つしかあるわけじゃないし)


 だが、その後の食事で、事前に伝えていた好物の卵料理が出てきたことでテンションが上がった美鳥は、午後の授業で質問しようと思っていたことなど、すっかり忘れてしまったのだった。

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