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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
第一章『入学に至るまで』
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(08) ~ 秘密の後見人

 連れてこられた先は。


「校長室でしたー」


 わーぱちぱち、と小さく棒読みする。今、校長室にはオズ一人がソファに座らされているが、先ほどまで妙に取り乱した様子のティストンと校長もいた。二人は、別室でなにやらごにょごにょと話しているらしい。


「……ああ、待たせたね」


 真面目に盗み聞きもせず待っていたオズは、揺らしていた足をぴたりととめると、部屋に入ってきた朗らかそうな老人に顔を向けた。その後ろから、あせあせとティストンがついてきている。


「ふむ」


 ティストンが扉をしめると、校長は懐から細い杖を取り出して、さっと一振りした。それだけで、室内をきっちりと覆う美しい結界ができあがる。


(あ、この校長は、他とレベル違うわ)


 先ほどの校内探索で、一部感覚野がはじかれる場所があったのだが、おそらくそここそこの校長が張った結界だろう。探索の間、これほどの魔力を持つ人間は見つけることができなかった。魔力量を鑑定してみれば……先ほどオズが発したものの倍か、それより少し上くらいである。


(この人も、魔力の放出を抑えてる……実際は、さらに倍は余裕だろうな)

「さて、オズくんといったね」

「あ、はい」


 正面に座った校長に見据えられながら、オズは特に緊張した様子もなくこくりとうなずく。


「今、この場に結界を張った。この部屋の中でなら、多少の無理はきくからな……抑えている魔力を、できる限りみせてくれはしまいか」

「はあ……」


 オズが魔力を隠蔽しているということは、先ほどのやりとりでティストンにもすっかりバレたようだ。結界の強度もなかなかだと思ったので、オズは言われたとおり、魔力を放出する。

 ……それでも、自身が持っている魔力の数十分の一だが。質はともかく、量としてなら校長と匹敵するであろう分を出してみる。

 オズが魔力を解放した瞬間、校長とティストンの顔が引きつった。


「これ、は……」

「うぅむ……わし以上、だな」

「さ、さっきのも加減していたっていうのかい?」

「ええ、どのくらい出せばいいのかなぁと思ったんですけど、とりあえずティストンさんより多く出しておけば、才能ナシとまでは言われないかなと」

「……ちなみに聞くが、まだ出せるか?」

「校長!?」

「いやまあ、出せと言われれば多分出せますよ?」

「キミも何怖いことを!? 出せますなんて簡単に!!」


 ティストンがこれ以上なく取り乱してきたので、少しうるさいなと思ったオズはさらに魔力を上乗せしてやった。とたん、ティストンは目を見開き口をぱかんと開いて硬直する。


「……校長」

「うむ、オズくん、最終確認だ。キミは本当に、身元を証明するすべがないんだね? そして、この魔法学校が後見となっても、問題ないわけだね?」

「あ、はい」


 真剣な顔で聞いてくる校長に対し、オズは魔力を引っ込めて気負いせずうなずく。


「それでは、後見人としてわしの名を使ってくれ」

「それは……願ってもないことですが、大丈夫ですか?」


 不安そうなティストンの声と表情に、オズは軽く引っかかりを覚えたが特に気にしないことにした。というより、こんな正体不明の入学希望者に、いきなり校長が後見として名乗り挙げることの方が驚いた。


「あの、俺ってそんなに規格外ですか?」


 彼に問われて、二人はうーんとうなる。どうやら、魔力を放出しすぎたらしい。最近人間とまともな交流をしていなかった性で、人間の基準というものにすっかり疎くなってしまっていた。


「わしが出張ろうと思うくらいにはなあ。で、表では代役を立てる。ティストン、キミに任せたい」

「……は、はっ!? わ、私はただの事務員ですよ!?」

「だが、ここの卒業生だったろう。ならば、教職免許も持っているんだろう? 問題はない」

「……ま、まあ改めて人を増やすよりは、いい、のですか……」

「えっと、あの、試験とかなんかすっ飛んでるんですけど、しかもなんでわざわざ後見が表と裏で二人もいるんですか?」


 うなずきあう校長とティストンを見て、オズは首を傾げる。校長は彼の方を向くと、うむと首を傾げながら、気まずそうに言った。


「キミほどの魔力を持つものは、わしの短くはない人生でも初めて見た。多少才能があるという程度だったのなら、わしの弟子に任せるのが一番なのだが、わしをも超える魔力となるとやはり何かあったときのため、わし自身が責任をとれる位置にいたほうがいいだろう」

「ですけど、ヴィグメール校長はここ数年、弟子をとったり誰かの後見になったことがないのですよ。オマケに、弟子入りを断ってきたもののなかには貴族階級のものもいるので……」

「ああ、どこの馬の骨とも分からない人間が突然校長さんの近くに出てきたら、断られっぱなしだった貴族がぷつんとするわけですか」

「まあ、それも最初のうち、キミが実力でもって彼らを黙らせられるほどになれば、こんな小細工は必要なくなると思うのだが」


 こくりとうなずき「精進します」と答えると、好々爺然とした校長は相好を崩した。


「魔術の才なきものの後見に、魔法学校がなることはないが、その点は十分クリアしている。検査はいらないだろう。だが、入学試験はきちんと受けてもらう。合格できなくば、その後一年は基礎からの勉強になるからの」

「あ、はい。わかりました。……試験まで、俺はどこにいればいいでしょう?」

「そういうことなら、私のうちにくるといいですよ。部屋はありますし。妻と子供には事情を言わねばなりませんが」

「じゃあ、お世話になります」


 オズはこれから大変世話になるであろう二人に向けて、深々と頭を下げた。

 内心、うまいこと手順を省略できてラッキー、なんて思いながら。

うっかりここで校長の名前既出だったことを忘れておりました……。

「イルフォースト」から「ヴィグメール」に変更させていただきます。

……うわあ酷い間違いorz

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