(68) ~ 王との対話
一行が皆、部屋の中に入って整列をすると、オズを除いた全員が跪いた。
(……あ、あれ王様か)
一拍遅れて、目の前にただ一人座っている男性の正体を理解したオズも跪く。だが、彼が魔法学校生であることを示す外套を着たままだったのが幸いしたのか、眉をひそめる者はいても、声に出して指摘する者はいなかった。
「ああ、立ったままでいい。玉座の間でもないのだからな。……よく戻った。報告を聞いたときは、若い才能たちを一度に失ってしまったのかと思ったが」
静かな声で、国王が口を開く。途中で言葉を切った彼は、その視線をさまよわせた。それはすぐに、ゆっくりと立ち直した一行の中にいるオズへ向けられる。
「『貴石』のオズ、といったか。ヴィグメールの一番新しい弟子だそうだな。君の働きによって巡回隊は救われたと聞いた。よく、『異形のもの』を退けてくれたな……礼を言おう」
「あー、ありがとうございます。身に余る光栄です」
なんと返したものかなあと思いつつ、なるべく無難な言葉を選んで頭を下げるオズ。どこかぎこちない彼の姿に、国王はほほえんだ。
「硬くならずともよい。人は最低限集めているが、非公式の場だからな……。それで早速だが、もう一度詳しい話を聞かせてもらえないか」
国王の言葉に、指導教官の一人が今回の『異形のもの』出現について語り直した。事前に送られていた報告書とほぼ同じだが、より詳しい内容に頷いた国王は、そっと傍らのテーブルに置かれている小さな水晶玉に目を向けた。よく目をこらすと、水晶玉の中心に伝達魔法を発動させる魔法陣が浮かんでいる。
「さて、貴方にも話は伝わりましたか? 『水の巫女』殿よ」
『はい、気遣いありがとうございますわ、陛下』
そのやりとりを目にしたオズは、目をぱちりと瞬かせた。
『水の巫女』というのは、宗教国リンブルーリアにいる最高位神官のうちの一人である。それぞれ、水の神、風の神、火の神の意志をはっきりと聞くことが出来る才能を持つ者たちがいて、彼らは人間の中で最も神に近しい者として崇められている。
『此度のこと、犠牲となった魔術師の魂が無事、神の御許へたどり着き安らかな時を過ごせるよう祈ります』
「……ああ、そう願いたいものだが……」
巫女の言葉に、国王はため息をついた。
「今まではっきりと分かっていなかった『異形のもの』の出現経路が……まさか、魔術師が変貌した姿だったとはな。人としての魂のままでなくば、神の元へなど向かえまい」
彼の視線は、後方に置かれたままの棺桶へ注がれた。
「その中に、魔術師の遺体があるのか。最後、人の姿に戻ったというが、一度死んだと思ったら姿が変わったのだろう? また、そうやって襲ってくることはないのか」
「……私たちもそれを考えて、遺体はその場で燃やそうと考えたのですが……この、彼がもう大丈夫だから、遺族の元へ返してやって欲しいと」
国王の質問に、どうにも歯切れ悪く指導教官が答えると、その隣にいたオズが頷いた。