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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
第五章『世界の底から覗く者』
68/104

(67) ~ 王宮へ

 オズは、一つの即席棺桶とともに馬車の中へ押し込められていた。

 『異形のもの』の出現と、急な体調異常を訴える隊員たちの状況から続行不可能と判断された巡回は、その場で終了となった。巡回隊は進路を変え、まっすぐに王都へと帰還した。その間オズと、ある程度清められた召喚魔術師の遺体は一緒の馬車に詰め込まれ、到着まで出てくるなと念押しされた。

 そして、王都に着いたとたん事前に連絡がされていたのか、指導教官たちとオズを乗せた馬車はそのまま王宮へ連れて行かれることとなった。

 オーデント国の王宮は、王都のすぐ側にあり魔法学校とも関係が深いとされているが、さすがにここにはオズも今まで立ち入ったことは無い。たまにヴィグメールが呼び出されたりしているが、その付き添いにはオズ以外のしっかりした元弟子たちが選ばれるので、そちらの経路からも無い。


「ずっと気になるなあって思ってたところに入れるっていうのに、幌のせいでなーんも見せてもらえないってないねー」


 ねえ? と軽い調子で傍らの棺桶に話しかけるオズ。絵だけ見たら相当な変人だが、巡回が切り上げられてからというもの、用を足す以外で外へ出ることを禁じられているのだから、話し相手が棺桶の中身ぐらいしかないのである。それでも、王都に入るまではバルドが食事を持ってきてくれていたので、その一瞬だけ彼と会話も出来ていたのだが。

 しばらくごとごとと揺れる馬車の中で退屈していたオズだったが、やがて馬車が止まり、幌がまくり上げられたのを見て顔を上げる。


「降りてきなさい」

「はーい」


 硬い表情を浮かべている指導教官たちに囲まれながら馬車を降り、オズは思い切り伸びをした。軽く方を回して「あ、体バキバキしてる」と呟く彼を複雑そうに見ている教官たちに、オズは軽く首をかしげた。


「……あの、こういうときって一応、あれあるんじゃないですか?」

「あれってなんだ」

「ほら、魔法使えなくする制限装置とか。なんかやばそうだから、俺ここに詰められてたんですよね。死体と一緒に」

「いや……」


 言葉を濁した指導教官だったが、そのうちの一人が頬をかきながら答える。


「もし、またあの化け物が現れたとしても、お前なら対処出来るのではという意見で、満場一致になってな……」

「え、ひょっとして見張りのためだけに、俺ずーっと棺桶と一緒にさせられてたんですか? うわあ、俺だって結構気持ち悪かったのに、初日は」

「……今、謝罪の言葉をうっかり飲み込んだ俺は悪くないよな……?」


 その後、王宮に常駐しているという神官たちが馬車の止められた正門までやってきて、指導教官たちやオズに聖水を振りかけ、棺桶には聖水の他に、複雑に編まれた花冠のようなものを載せた。

 神官からの祝福が終わると、ようやっと王宮内へ通された。だが、神官たちに囲まれたまま人気の全くないルートを延々歩かされ、オズはこっそりあくびをかみ殺した。教官や神官たちのこわばった表情など、まったく気にも留めず。

 やがて、一行は小ぶりな両開きの扉の前にたどり着いた。以前から資料で見かけていた、オーデント国の紋章が彫り込まれているそれを見て、オズはぱしぱしと軽く頬を叩き、眠気を追い出す。


「巡回隊、入室いたします」


 軽いノックのあとに神官の一人がそう告げると、静かに扉が開いた。

 室内で待っていたのは、そろいの制服を着た神官たち、宮廷魔術師たちに学者のような老人、そして両脇に近衛兵を控えさせた、壮年の男性だった。

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