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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
第五章『世界の底から覗く者』
66/104

(65) ~ 悪夢の始まり

 赤い噴水。そうとしか、表現できなかった。

 何もない宙を両手でかいて、ぐらりとかしいだ召喚魔術師の姿を、バルドは呆然と見つめていた。


(今、召喚体が、主を、襲った?)


 遠くからでも分かった。なかなかお目にかかれない召喚魔法で、昨日も一昨日も、森に入る前は周囲の索敵という目的で美しい鳥を召喚し、誰よりも正確な情報を手に入れていた彼は、血の海に沈んだ。

 一拍おいて、後続の訓練兵や魔法学校生たちの悲鳴が響き渡った。何事かと振り返った先を行く面々も、大量の血をまき散らして倒れている彼の姿を見て顔色を変える。


「何が起こった!?」

「あ、あれ、あれが……」


 全隊停止の指示を出した指導教官は、パニックに陥っている訓練兵たちを怒鳴りつけながら事情を聞き出す。そして、彼らが指さすものを見て、目をむいた。

 艶のある青い羽毛の大半を、鮮やかな赤に染めた鳥。うっすらと透けているそれは、どう見ても召喚体で、教官自身もこの巡回中に数度見かけたことのあるものだった。

 召喚体はくるり、くるりと、なんでもないかのように上空を旋回し続けていた。だが、その目は明らかに召喚魔術師を取り囲む他の人間たちに向けられていて、まるでそれは、品定めをするかのような……。


「術者は!?」

「やられたんです、やられたのは、召喚したヤツです!!」

「は……?」


 指導教官はもう一度、倒れている彼を見る。ぴくりとも動かない彼は、とっくに事切れていた。


「術者を殺して……いや、待て、なぜ主が死んだのに、あいつは消えない!?」


 あり得ない事態に、教官自身も混乱してしまう。すると、今度はすぐ側で悲鳴が響いた。それも、一つや二つでは無い。


「ぎぁあああああっ!!」

「いっつう!?」

「んだよ、あれえ!!」


 ある者は血の流れる顔をかばい、切り裂かれた腕を抱え、えぐられた腹を押さえた。

 混乱していた隙を突かれ、召喚体がさらに上空から襲いかかる。その姿は血にまみれ、おぞましく歪んでいた。若い者たちを守らねばと剣を抜き、各位置から集まってきた教官たちは背筋を這い上ってくる怖気に、硬直した。


(まずい)

「クソッタレ!!」


 空を見上げながら動けなくなった教官の目が、暴走する鳥にえぐられようとしたそのとき、両者の間に何者かが割り込み、召喚体をはじき飛ばした。

 ドンッ! とすさまじい音を立てて着地したオズは、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべていたが、すぐに周囲を見回して痛みにのたうつ者を確認する。その誰もが、魔法学校生だった。


「ああもう、魔力ぐっちゃぐちゃ!! 転移出来ないとかホント頭にくるなあ!! おかげで全力疾走のち全力大ジャンプだよ!!」


 盛大に怒鳴り散らしながら、オズは一瞬で広域治癒魔法を発動させる。淡い金色の光に包まれた者は、引く波のように消えていく痛みに戸惑い、完全に癒えた自身の体に驚き歓声をあげた。


「気を抜いてるんじゃない、まだいるぞ!!」


 光が収まったところで、オズがさらに大きな声を出す。はっと我に返る者たちなど気にも留めず、倒れたままの召喚魔術師を見つめる。

 そして、ため息をついた。


「……入り込まれたか」


 物言わぬしかばねだったはずのそれが、びくりと震えた。

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