(62) ~ 再会は、すぐそこに
一ヶ月後。王都でも、コルコトアでも無い、山の麓に存在するこじんまりとした町ソティアに、巡回班は集まっていた。それぞれ訓練場や魔法学校から、軍属になるべく集まった者たちばかりで、訓練兵たちはおおよそ百人、魔法学校生は五十人ほど集まっていた。
「ふーん、案外少ないものだね」
「……今年は多い方だってよ。昔は、二十とか三十しかいなかったりしたとき、あるらしいし。ま、魔術部隊は少数精鋭って言うしなあ」
その中で、唯一軍属希望を出さないまま、『参加理由:見聞を広める』で今度の巡回に参加したオズと、普段から身につけている魔法学校生の外套の下に、胸当てや籠手などの防具を着けているバルドは並んで会話をしていた。
防具を身につけている魔法学校生は多く、見た目に差は無いがローブの下に鎖帷子を装備している者もいた。訓練兵たちのように大型のものは身につけてもすぐに体力が無くなるし、動けなくなってしまうが、いざとなれば前線に出ることも考えられるので、これぐらいは普通であった。
そう、『普通』なのだ。
まかり間違っても、「結界魔法があるんだしー」などという理由ですべての防具を断るなど、常識外である。
「……けど、お前相手だと誰も何も言えねえよな」
「あっはっは、いやあ師匠の一筆は効くねー。最高」
「職権乱用って言葉知ってるか」
「この場合、職権というか特権?」
巡回参加希望用紙に署名を求める際、ちゃっかりもう一つだめ押しの一筆をヴィグメールからもらっていたオズは、それをひらひらと振って笑っていた。
簡単に言うと、「オズへの命令は、団体行動以外のものは基本無意味で、彼自身が承諾しなければならず、また命令違反によって引き起こされたいかなる被害も、オズ本人と師である魔法学校長が負うものとする」といった感じである。
(校長……すげえ人かと思ってたけど、こいつに完全に舐められてねえか?)
心の中で、今後の魔法学校に関してやや危機感を持ったバルドだったが、もう遅いとすっぱり諦めて考えないことにした。
と、そうして準備が整うまで町の外れに用意された宿泊テントの前で、他愛ない会話をしていた二人だったが、こちらに近づいてくる足音と人影に気付き、振り返る。そこにいたのは。
「うわ、久しぶり、ですねー」
「おい今敬語一瞬忘れてただろ。……もういいけどよ」
「久しいな、オズ。二年ぶり、になるか?」
合同演習の頃から、また少したくましくなったように見えるガーティとドルグの二人だった。二人の身につけている武具は、バルドのもののように新品とはいえず、それなりに使い込んだ跡が見えた。
「んー、じゃあもうお互い大人だし、面倒だからタメ口にするよ」
「お前、ほんっとブレねぇな……」
「あ、そっちの学生も見覚えあるな。確か、炎をオズに消されてた……」
「ああそんであんたにぶっ飛ばされた魔術師ですよ!!」
ガーティの言葉にバルドが食い気味に答えて、二人でやいのやいのと騒いでいる間に、オズの側へドルグが近づいてきた。彼は、以前よりもやや穏やかになった表情でオズを見下ろす。
「……ここで会うとは、思わなかった」
「俺は思ってたけどね。去年も参加しなかったなら、今年は来るんじゃないかなあって」
「約束は」
オズは、にっこりと笑みを浮かべる。
「もちろん覚えてる。けど、今はまずいでしょ」
「……それもそうだな」
それに対してドルグも、ささやかな笑みで応えたのだった。




