(60) ~ 軍属試験
構内掲示板に張り出されたそれを見たオズは、がやがやと話し合っている他の魔術師たちを一瞥して笑みを浮かべた。
「面白そうなこと、やりそうだなあ。国内巡回の実地訓練ねえ……」
それは、コルコトアの訓練場と連携をとり、近場の見回りを行うというものだった。そして、これは軍属を目指すものにとって最終試験とも呼べる。
見回りに参加するのは、訓練兵の中でも成人し、教官から仮の軍属許可を貰ったもの。そして魔法学校の中では、独り立ちの目処が立ち、一定レベル以上の攻撃魔法が扱えるものとなっていた。
「これ、必ず軍に入らなくちゃダメともないから、ついて行くだけ行っちゃダメかなあ」
「やっぱ行く気かよ」
「あ、バルド」
振り返ると、『貴石』となって三年目、すっかり大人になりやっと落ち着きが現れてきた友人が立っていた。バルドはオズの肩越しに知らせを見て、瞳に熱を宿す。
「とうとうこの時がきたってか。腕がなるぜ」
「全くね、ティターヤさんから許可、貰ったの?」
「でなきゃ今年の巡回参加なんぞできるかよ」
にやっと笑みを浮かべて答えるバルドは、確かに年が変わる前、師であるティターヤと魔法による一騎打ちを行い……彼の持つ炎の魔法を継承することに成功していた。
ティターヤに師事すると決めてから、バルドはオズが見ていないところで相当の努力を重ねたようで、今まで候補すらいなかったティターヤの後継として早々と名指しされていた。そして、正式に彼がバルドに魔法を教え込んでいくと、バルドはみるみるうちにそれらを吸収していった。
(らしくないけど……努力と、炎の魔法の才能は本物だったわけだなあ)
現在は継承した魔法の練度をさらに高める修行をしているらしいが、彼ほどの実力を持っているなら、この巡回に参加することにティターヤも異議は無いだろう。
「けど、お前本当に来るわけ? 軍属希望なしで参加するって、よほど酔狂だ」
「んー、まあ一応校長に『おうかがい』を立てて、ね? まあダメって言われたら引っ込んでるけど~」
こちらも異議など言わせるつもり、欠片もナシである。
そして、オズは適当にバルドと話をして、彼が巡回希望の受付へ向かうのを見送ると、足早にヴィグメールの書斎へ足を向けた。ノックもなしに堂々と入っていき、なぜか机に背を向けて……つまり、出入り口側にも背を向けて本を読んでいるヴィグメールに声をかける。
「師匠」
「……なにかね」
「巡回、行きたいです」
「……遊びではないのだぞ」
「遊ぶつもりなんてありませんよ、見聞を広めに行くのです」
「……妙に、棒読みではないかね」
「それは師匠の気のせいですよ。それよりほら、なんで弟子に背を向けたままなんです。こっち向いて下さい」
言いながら、オズは右の人差し指を立てて、くるりと回す。すると、ヴィグメールの座っていた椅子ごとぐるりと回転し、オズと向かい合う形になった。
「……今のは本気でびっくりしましたぞ!? いきなりこういう乱暴な手段に出るのは止めて下さい!!」
「ちょ、ヴィグメール声デカイ。ねえ、頼むよ。……嫌な感じがする」
開いていたページがくしゃりとつぶれてしまうほど力んでしまったヴィグメールは、近づいてきたオズに向かって非難の声を上げるが、オズがそっと口元に指を当てると黙り込まざるを得なくなる。
そして、ヴィグメールの眼前にまで近づいたオズは、真剣な表情でつぶやいた。
第五章、開始します。
あんまり引き延ばしたくないなあ……合同訓練よりは短くしたい……。




