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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
第一章『入学に至るまで』
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(06) ~ いざ魔法学校へ

 塀に囲まれた、お屋敷以上城以下といった様相の建築物……魔法学校正門にやってきたオズ。

 門は両側に一人ずつ門番がいるものの、大きく開かれており、ある程度までは一般人も入ることが可能なようだった。

 とはいっても、入れるのは正面の庭か、せいぜいエントランスぐらいまでなので、オズはさっさと門番に話しかける。


「あの、魔法学校の入学手続きって、どうやるんですか?」

「ん? 君、入学希望者なのかい?」

「はい」


 四十代くらいの、人のよさそうな門番は、手形を握りしめて自分を見上げてくる少年の顔を見て驚いた。薄汚れた外套をまとってはいるが、そこいらではお目にかかれないような美少年である。


「入学手続きは、保護者の同行、推薦状なんかの持参が最低条件なんだけれど……」

「保護者も、推薦してくれる人もいないんですけど……あとこれ」


 オズはずいっと門番に手形を見せる。それを一目見て、門番はさらに目を見開いた。


「こりゃ……!? 君、町の外から来たのか」

「ええ、今日着いたばかりです。本当はもっと審査に手こずるかと思ったんですけれど、城門管理の人にこれを渡されて」


 そうして、簡単に自身の事情を説明する。といっても、管理官に話したものに『王都の魔法学校に通いたかったので』という目的を加えてのことだったが。それ以外のことは、とりあえず盗賊のせいにしてうやむやに。


「……先輩、どうするんです?」

「うーん、確かに、身元不明者の後見も、ここの学校なら条件次第じゃ引き受けると聞くが」


 見る限り、荒事とは無縁そうな少年である。盗賊に襲われて一部の記憶と荷を失ったと言っていたが、間違えればこれからの人生地獄を見ることになっていてもおかしくなかった。身寄りもなし、ここで拒絶されれば、頼るすべはない。

 なんだかとてつもなく不憫なものを見る目で見られはじめたオズは、門番二人の脳内で、自分がどれだけ悲劇の主人公として扱われているのか、ちょっとのぞき見したくなった。自重したが。


「……とりあえず、窓口には案内してみるか。ちょっと待ってろ」

「あ、はい」


 もう一人の門番を置いて、壮年の門番はオズと一緒に魔法学校の中へ歩いて行く。


「俺はジコル。もし、どうにもならなくなったら、俺のところに来るといい。世話まではできないが、ちょっとした仕事を紹介することぐらいはできるからな」

「ありがとうございます」


 礼を言って、にこりと笑う。すれ違った女性職員がそんなオズの表情に釘付けになっているのに気づいたジコルは、思わずため息をついた。

 エントランスを抜け、やってきた事務室は入学試験前とあってずいぶん慌ただしかった。そんな中、やってきたジコルとオズの二人に気づいた一人の男性職員が、まだそう老けていないのに薄そうな頭をなでながら近づいてくる。


「こんにちはジコルさん! どうかされました?」

「いえ、実はこの子が、入学希望者だというのですが、少々訳ありのようで」

「訳あり?」


 職員は首をかしげると、オズの方に目を向ける。やっぱり彼も、その顔を見て驚いた。そこで、さすがにオズは次から顔を少し隠そうか、と考えだす。


「この子は貴族? いえ、にしては服装が」

「今日着いたばかりだそうです。道中盗賊に襲われて、身ひとつになりながらもどうにかここまで来たとか」

「盗賊に!? よく、無事だったねぇ」

「そう思います」


 こくりと頷いて、うーんとつぶやきながらオズは自分の持っている手形を職員に見せる。


「……え、家名なし、出身地、年齢、不明……?」

「名前と、何がしたかったぐらいしか覚えてなくて。こんな半端な手形しか発行直してもらえませんでした」


 手形に刻まれた情報を見て、またさらに固まる職員にオズは苦笑を浮かべる。まあ、それでも手形がある世界で、こんな情報だけでも手形を発行してくれるだけ寛容なんじゃなかろうかと彼は思うのだが。

 職員はわしわしと髪をかきながら、真剣な表情でオズを見下ろす。


「これは、入学希望と言うより後見希望といった方が正しいかな。今君は、何の庇護も受けていない、どころか自身の出自さえわからない宙ぶらりんな状態だ。こんなんじゃ、たとえ大人になれたとしてもまともな道を歩けるとは思えない」


 さっきまで大人の姿であったことは黙っておく。


「ジコルさん、一応彼のことは事務局でしばらく面倒をみることにします。結果はどうなるかわかりませんが……」


 言って、職員はオズと視線を合わせ直すと、にこりとわらった。


「ひとまずのところは、よろしくと言っておこうかな。僕はティストン。ここの事務員だけど、一応魔術師のはしくれでもあるよ」

「あ、はい、よろしくお願いします」


 答えて、ぺこりと頭を下げる。ある程度魔力は感じていたが、この程度でも魔術師を名乗れるのかとオズは内心驚いていた。加えて、町に入ったときから自身の魔力を隠蔽していて良かったとも。

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