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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
第四章『召喚魔法と世界の理』
55/104

(54) ~ 人外の魔術師

 壁一面、天井に届くまですべてが本棚となっている部屋の中央で、ごろりとソファに横になりながら巻物を読んでいたオズは、誰かが部屋の扉を開ける音を聞いて顔を上げた。


「あ、師匠、お帰りなさい」

「……オズ、せめて姿勢を正さないかね」

「はーい」


 書斎の主であるヴィグメールが苦笑を浮かべて注意をすれば、オズは間延びした返事を返しながら身を起こす。


「最近多いんですか? 王宮からの呼び出しって」

「そうさな……ここ数年、少しずつ増えてはいるな。ああそうだ、オズ、測定器はどうかね?」

「この通り」


 豪奢で重たげな外套を脱ぎ、安楽椅子に座って一息つくヴィグメールの前に、ことりと何か透明な石の残骸が置かれた。


「またかね」

「やっぱりどの装置でも耐えられませんよ。俺の本気なんて」


 にっこりと笑うオズを前に、ヴィグメールは頭を抱えた。

 自分がいない間、オズに頼んでいたのは彼の魔力値の測定だった。それも、『原石』の頃から行っている測定試験のような手加減はなし……彼の魔力の限界を、彼は知りたかったのだ。

 しかし、どれほど魔力に対して強固で、適正のある魔石を用いても、彼の魔力を測定することはできなかった。彼の力の限界を知る前に、魔石の方があっさりと限界を迎えてしまう。……自分が研究用にと持っていた魔石の三つ目が、今目の前で無残な姿になっていることを認めたくなくて、ヴィグメールはそっぽを向いた。


「これ一つで一家が五年は暮らしていける金になるのだがね……」

「ま、欠片になっても魔石は魔石ですから、研究にはまだ使えますよ。ああ、それとこっちは俺が自分でやった測定内容です。一応、記録はとっておきましたけど、もしよければ目の前でやってみせますよ」


 そう言いながら、オズは一枚の紙をヴィグメールに手渡した。それを受け取り中身を確認したヴィグメールは、思わず実験結果を二度見する。


「……冗談かね?」

「はい、じゃあこれ見てて下さい」


 そうしてオズがどこからか、正方形の水晶に金色の枠が取り付けられた魔法具を取り出した。ヴィグメールにも見やすいような位置に置いて、そっと手をかざす。

 オズの魔力が送り込まれた水晶の中心に、鮮やかな光が宿った。それはオパールのように虹色に変化しながら、その形状をもゆっくりと変化させている。オズが手渡した実験結果と、全く同じ結果をまざまざと見せつけられたヴィグメールは、低いうなり声を上げた。


「……どの属性とも相性がよく、かつ魔力の形が多岐にわたるなど……わしでも、多少色は変わるが、ここまでぐねぐねと変形したことはないぞ」


 この魔法具は、魔力の量ではなく質を見るためのもので、数秒にわたって魔力を流し込むことによって、その者が持っている得意な属性や魔力の形状を視覚的に知ることが出来るという、最近開発されたものだ。これにより、本人のやりやすい、やりにくいといった感覚以外に、その魔力の質によって得意な属性が分かる他、特殊な魔力の形状でなければ行使できない召喚魔法の素質も見抜くことができるという優れものであった。

 そしてその魔力の質は本来、個人差はあれどいくつかの形状パターンを持ち、色も普通の魔術師で一つか二つ、優秀な者で四色程度が限界である。かくいうヴィグメールも、火、水、植物の三つを得意としており、それ以外も普通の魔術師よりは当然使えるが、先ほど言った三属性とは比較にもならない。


「まあ、つまり俺はどの属性でもまったく抵抗なく使えるし、どんな召喚魔法も使えちゃうってことになりますね。魔力も底なしなので、燃費についても問題なし」


 からからと笑って魔法具を宙に浮かべるオズに、ヴィグメールはため息をつきつつ言った。


「まったく……『貴方』のような方が、なぜいまさら魔法学校になど通われたのです」

「あー、師匠、俺に対して敬語使わないで下さいって言ったじゃないですか。うっかり外でやらかすと大変だからって……決めたでしょう?」


 オズは魔法具をテーブルの上に置くと、ふわりと浮かび上がって安楽椅子の背もたれあたりに座り込むような動作をする。


「今は、あなたが俺の師匠で、俺はあなたの弟子なんですから」

「……初めてお目にかかったときから、猫を被っていらしたのですかな?」

「ああ、確かに被っていたね。子供らしく見えるように」


 くすくす、とオズは笑う。

 オズはヴィグメールの弟子となることが決まり、この書斎で彼と二人きりになったとき……自身がただの人では無いことを彼に打ち明けた。


『俺はあなたよりもずいぶん長く生きてきたけど、面白いことをここしばらく探していてね。興味がわいたから、ここへ来たんだ。あなたの弟子という何かと便利そうな立場もいただいたし、あなたに対しては変に隠し事をして、疑われるのも面倒だからね。是非とも、独り立ちまでよろしく頼むよ、「師匠」』


 初めて出会ったときや、学校内で友人たちに向けていたものとは全く異なる彼の表情。

 なにより、身動きどころか呼吸さえ忘れてしまうほどの濃い魔力の気配に気圧され、ヴィグメールは理性では無く、本能の部分で理解した。

 彼は、人の形をした『何か』なのだと。

校長には、正体までとは言いませんが、人外宣言したオズ。

一応、作中ではオズの次に魔法に詳しい人なので、そばにいるならいっそバラしちゃえ、ということで。

普段、二人が外で見せている師匠と弟子の姿は、ほとんどごっこ遊びみたいなものです。オズが希望しているので序盤のようなやりとりをしていますが、校長の本心としては後半のやりとりの方がなんぼか気が楽みたいです。

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