(52) ~ シャーリーンの相談室【前編】
お気に入り、1000件突破しました……か?
ええええどうなっているのコレハユメナノ?
ありがとうございます、え、エタらせるわけにはいかぬ……!!(滝汗
「疲れた顔をしていますわね」
「……分かる?」
「隠すつもりもないでしょう。それだけだらけていれば、分かりますわ」
図書館の談話室にて、銀のトレーに小ぶりのティーセットを載せたシャーリーンは、なぜかぐったりとして一人で大テーブルを占領している同期の姿を見つけて、ためらいなくそこへ近づいていった。
各種属性魔法から攻撃、治癒、解毒、解呪、さらにはあまり研究の進められていない召喚魔法に関する書物が雑多に置かれてるテーブルに突っ伏していたオズは、目の前に座った美女にちらりと目を向けるも、またすぐに顔を伏せてしまう。
「シャーリーンは休憩ー?」
「そうですわね。今日は天気があまりよろしくないですし、オープンテラスが肌寒かったのでこちらに来ましたの」
「いい匂いするなあ」
「……カップは一人分しかありませんわよ」
そう言って、シャーリーンはほおづえをつきながらしばし待つ。うつぶせのまま、オズはなにやらごそごそと身じろいでいたかと思うと、どこからかシンプルなマグカップを取り出してシャーリーンの方へ押し出してきた。
「はあ」
あんまりな要求にも、シャーリーンはため息一つで応じると、自身のカップに紅茶を注いだ後に彼のマグカップにも注いでやった。水音が途切れるとともに、むくりと起き上がったオズは両手で包み込むようにマグカップを持つと、しばし香りに癒やされた。
「あー、甘い匂い……フルーツティー?」
「お母様が最近好んでいる銘柄ですわ。上流の女性の間で流行っておりますの」
一口飲んでその風味を楽しんだシャーリーンは、静かにカップを置くとオズを見つめた。
「それで、なぜそんな顔をしていますの?」
「……シャーリーンさあ、リフィルス家のメルベロートって知ってる?」
オズの口から出た名前に、シャーリーンは目を見張る。
「我がウェストラードと並ぶ、魔術の名門ではありませんの。けれど、メルベロートの名はあまり聞いたことが……」
「確かね、四男らしいよ。魔術一本に絞ってるから、もう社交界に出ることも諦めてるんだって。俺たちより二つ年上だったかな」
「はあ。けれど、リフィルスの魔術師はあまり他人と関わろうとしない気質の方が多かったはずですけれど。代々、召喚魔法について研究している関係で、他の術師よりも情報を公開したがらないのでしょう?」
「……うん、俺も関わりたくなかった」
うんざりとした顔で言うオズに、シャーリーンは首をかしげる。
「その言い方だと、向こうから近づいてきたようですわね」
「うん……あのさ、俺って最初、『貴石』に行くとしたら召喚魔法についていろいろ調べようかなあなんて思ってたわけ。でも、校長のところに来いって言われて、その話はナシになったわけなんだけど、俺が提出しちゃった進路表については他の教師の間でも噂になってたらしくて、リフィルスの魔術師に弟子入りするのかって言われてたらしいんだ、よね」
「そう、ですわね。今も、召喚魔法の第一人者と言えば、リフィルス家の次期当主であるカミル様ですし、貴方の力であれば、あの方に弟子入りすることも夢ではありませんですものね」
「そう。けどまあ結局俺は校長の所に行くことになったわけで、それを聞いたそのメルベロートってヤツがさあ……そのカミルって人の、何、信奉者? もうものすっごい大好きらしくて、でも本人に弟子入り志願できるほどの才能までは無いからふてくされてたらしくてさ……そこで俺のこと聞いて、キレちゃったみたいなんだよね」
オズ自身は全く覚えていなかったが、あとから同じ時間に自習室にいたという同期に詳細を聞いて、やっとオズも事態を飲み込んだ。