(50) ~ 植物実験場へ
「で?」
「あ、あはは……久しぶり、オズくん」
「あー、レイル久しぶりー。なんか身長伸びた? お兄さんそっくりになってきてるけど」
「お前ら俺そっちのけでのんびり空気出すなや」
バルドは、目の前の光景から目を背けながら、背後で和気藹々と会話をしているオズとレイルに悪態をついた。
「え、だってこれ、バルドが師匠から頼まれたことじゃん。俺、勝手にくっついてきてるだけだし」
「お前はな! レイル! お前も一緒に行けって言われたろうがよ!?」
「う、うん、ごめん」
ずいぶん大きなカバンをしっかりと抱えているレイルは、バルドに謝ると彼が見ていた光景をもう一度眺める。
「それにしても、ずいぶん育ったねえ」
「ほっときすぎだろ……これ……」
彼らがいるのは、魔法学校が所有する植物実験場である。王都の外に敷地を持つそこは、一言で言えば森だった。
ティターヤに事務局からの請求書を突っ返されたバルドは、「これ以上研究費削られたくないから、ちょっと金策してきてー」という師匠の指示のもと、宮廷魔術師からの依頼である薬草採取に向かうこととなった。
しかし、薬草学は苦手では無いものの得意分野とは言いがたいバルドに、ティターヤは彼の友人であると分かっているレイルに連絡を取り、彼と二人で仕事をしてくるようにと言ってきた。それをはたで聞いていたオズも、ちゃっかりくっついてきたという次第である。
そして、魔法学校が用意している転移魔法陣で実験場にたどり着き、レイルと合流した後で見た実験場の内状はずいぶん酷いものだった。
「あ、バルド、足下にある花猛毒あるよ」
「のわっち!?」
「わあ、これ、丸一日昏倒させられるほど渋い味がするっていうキノコだよ……珍しいはずなのに、なんで群生してるの」
転移魔法陣の設置されている山小屋のような場所から一歩踏み出すと、そこは茂った草木で先が見えない樹海と化していた。しかも、魔法学校に残っている代々の薬学専門魔術師たちによって移植、栽培されたと思われる希少価値やら危険度やらが高い薬草がそこらへんに生えていたりするので、息をするのも緊張する。
「えーと、頼まれたものって第三区だけで揃うんだっけ」
「って、依頼書には書いてあったねえ。とりあえず、意味は無いかもしれないけど、地図と栽培区域見ながら行こうか」
「……道すら見えねぇのに、地図の意味あるのか?」
三人は事前に手渡されていた実験場内の地図を頼りに、山小屋を後にした。
もしも山小屋へ帰れなかったらと思うと、普通の魔術師なら救難信号を発するしか無いが……レイルとバルドは、たとえ遭難しかけたり、うっかり毒粉を吸い込んだりしてしまっても、オズがいればなんとかなると考えていた。
言外にそんな期待をされているオズは、地図をのぞき込みつつ前を歩く二人の背中をぼーっと眺めていた。
(なんだかんだで、五年目の付き合いか)
ただ、面白いことができればなという思いだけで、特に深く考えずに魔法学校へやってきたオズは、自分と対等に接する友人が出来るなんて思ってもいなかった。
自分の力がいきすぎたものだというのは、理解している。
いくら隠そうとしても、恐ろしがって離れていく人間のほうが多いことも、理解している。
過去に出会った人々も、仕事上や、契約うんぬんでの関係だけで、友人と呼べるほどのものはあまりいなかったと思う。
(……これからが、面倒かなあ)
もう、すでに体は成長しきってしまった。もう一度魔法でこれ以下になることはできても、これ以上にはなれない。
そして、その事実はいつか、そう遠くないうちに知られて彼らとの間に溝を作るだろう。
(少し、辛いかもな)
子供とも呼べないが、まだ大人になりきれてもいない友人たちを見ていて。
彼らと並ぶ、これから変わることのない自分を心の中に描いて、オズは寂しげな笑みを浮かべた。
唐突にオズの過去らしきもの。
レイルやミリア、バルド、ティストンたち家族やシャーリーン、ゼルティア(成長後)まで、ああして接してくれる人々はオズにとってとても貴重です。




