(44) ~ 決勝戦【後編】
やがて、諦めたジーノたちは、ソロルと一緒に対戦領域の端の方へ歩いて行った。残っているのは、ドルグと彼と同じグループの後衛五名、対してオズは一人だけである。
ドルグは、ひょいひょいと近づいてくるオズに目を細めるが、すぐに剣を鞘にしまうと、ごく自然な動きで手刀を放った。
「うわ危ない」
しかし、オズはあっさりそれをかわすと、ドルグの背後で倒れたままのガーティの側へ近づいていった。一瞬のことで、何が起こったのか分からなくなったドルグが振り返ると、オズはガーティが使っていた剣を拾い上げ、軽く素振りをしている。
「おい、あの生徒、剣使おうとしてるぞ」
「魔術師がなんで剣を持ってんだ?」
「ていうか、あれそこそこ重い剣だぞ……なんか、軽々持ってるけど」
外からオズの行動を見ていた訓練兵たちはしきりに疑問符を飛ばし、彼を知っている魔法学校生たちは、まさかと言葉を無くした。
「よし、それじゃ悪いけど、そっちはちょっと黙っててね」
「え、あ、ちょいオズ!?」
なぜか、ごく慣れた様子で剣を肩にかけたオズは、片手をドルグ側の後衛たち……知り合いの魔法学校生たちに向けた。なにをするつもりだ、と続けようとした男子生徒の声は尻すぼみになり、やがて五人ともばたりと倒れ込む。シャーリーンとの試合でも見せた睡眠魔法だった。
「……君は」
「ん?」
そして、立っているのはオズとドルグだけという状況になったところで、ドルグがこれ以上なく困惑をあらわにしていた。首をかしげるオズに向けて、しきりに手を握ったり、開いたりを繰り返している。
「魔術師、なんだな?」
「一応ね。けど、これも使えないわけじゃない。君が面白そうだから、これでやってみたくなったんだ」
年上には意識して心がけていた敬語も忘れて、オズは言う。そして、魔術師としてはあまりに綺麗に、大ぶりなその剣をしっかりと構えてみせた。
「試合はまだ、続いてるもんね。じゃあ、いくよー」
のんびりとした声とは裏腹に、オズは力強く地面を蹴りつけた。
思っていた以上の速度で迫る彼に、ドルグは一度困惑を頭の中から押しやると、彼を敵だと認識して次の動作に移る。
右肩を狙って切り込まれた剣を避け、それが振り切られたところで素早くオズの左半身側へ回り込む。そのまま、鎧も何もつけていない無防備な体に加減した拳を放とうとして。
「ほいっ」
想像以上に素早く切り返され、慌てて距離を取る。そして、一瞬考え込んだ彼は、ためらいなく腰の剣を抜いた。
「ふっ」
教官ですら最近ではなかなかとらえられない斬撃を繰り出すも、オズはそれをあっさり受け止め、拮抗状態を作り出してしまった。
「……細く見えるが、ずいぶん鍛えているんだな。今の攻撃を受け止めた者は、そういない」
「あはは、俺魔術師だよ? 適当に強化してるに決まってるじゃん。ま、けっこう大変だったけどね」
「とてもそうは見えない。それに……」
ドルグが息を吸い込むのに合わせて、二人は互いの剣を押しのけて距離を取った。
「ただ、体を術で強くしただけで受け止められるほど、単純な一撃のつもりではない」
「……ま、確かに普通のヤツなら手から剣がすっぽ抜けてるだろうけどさ。ほらほら、まだなんかあるでしょ!」
楽しげに、オズは駆け出す。また真正面から打ち込んでくるのかと構えたドルグだったが、オズは彼の間合いに入る寸前で横に飛び退くと、一瞬で背後に回り込んだ。
「っ!!」
「そいやっ」
そのまま突き出された剣を振り向きざまに紙一重でかわすと、ドルグは自身の剣を、オズの剣に絡ませた。腕が伸ばされたところをはじき飛ばそうとさらにひねりを入れるが、逆にとてつもない力で押さえ込まれる。
「ぐっ……しかし、やはり……!」
「ん?」
涼しい顔をしてドルグの剣を押さえ込んだままのオズは、必死の顔をしながら何かを言いかけるドルグの目を見る。
「君は、どこかで剣を習っていたな? がむしゃらに振っている、ようには見えない、芯のある、太刀筋が見える!」
「……!」
そのドルグの言葉に、オズは目を見開いて飛び退いた。圧力が無くなったことでたたらを踏むドルグだったが、先ほどまでの笑顔はどこへやら、呆然としたまま自分の持つ剣を見つめるオズに戸惑う。
「……そ、うか。まだ、……俺はまだ、忘れて、ないんだなあ……」
なにか、うわごとのように呟いていたが、ドルグは一つ息を吐くと、そのまま一気にオズに斬りかかる。
その刃が、無防備な彼の体に届く寸前。
「まだ、あの人はここにいるんだな」
先ほどのまでのものとは比べものにならない、鮮やかな微笑を浮かべたオズは、手にした剣を翻した。
その剣は、ドルグの剣を弾き、そのまま彼の胴に叩きつけられる。苦しげな表情を浮かべたドルグだったが、まだ戦意を失わず、オズをはじき飛ばすと何もない空間を切り裂いた。切り裂かれた空間は、目に見えない衝撃波となってオズに迫る。
が。
「そんなのも使えるんだ、やっぱり君はすごいね……でも」
剣では無く、自身の手のひらを衝撃波に向けたオズは、瞬時に展開された結界でそれを防いでしまう。
「そろそろ、おしまい。久々にすごく楽しかったよ」
衝撃波が彼に届かなかったことに驚愕するドルグだったが、瞬きの間に、彼の視界からオズは消えてしまった。
「どこ……っ」
焦って振り返ろうとしたところで、脇腹にすさまじい衝撃を加えられ、ドルグは吹き飛ばされ、膝を地に着いた。
剣を放してしまった自分の手を呆然と見つめていた彼の肩越しに、とん、と剣先が載せられた。
うっかり長くしすぎました。分割、するのは面倒でした……。
魔法無双するかと思えば、魔法で強化はしながらも、おもしろ半分なまま訓練場からのメンバーでは最優秀成績者を相手に、剣で、勝ちました。
……途中の反応については、たぶん、いつか……。少なくともこの作品でアカされることはありません。
そろそろ合同演習もおしまいです。