(42) ~ 決勝戦【前編】
対戦領域に並ぶ二十名は、壇上に立つマインダーを静かに見上げていた。
「……俺もまさかと思ったが、訓練場きっての秀才のドルグ=レゼルマンに、魔法学校創立以来の天才とかいうオズの所属するグループが残るとはなあ。これはなかなか、面白いことになりそうだ」
にやにやとした笑みを隠そうともしないマインダーは、さらに両手を挙げて続ける。
「さらには、どっちもまだまだ本気じゃねえんじゃ? なんて言われてる。こりゃ一緒の奴らも気の毒になるな。ま、これが最後だ。手は抜くな。やりきれ」
徐々に高く上げられる両手に合わせて、二つのグループはそれぞれの配置へ駆け足で移動し、体勢を整える。
「それじゃ、決勝だ……始めえっ!!」
合図とともに、オズ側の前衛五人が一斉に駆け出した。ソロルも今回は、弓では無く剣を装備して参加している。
一方、ドルグの側からはやはりドルグ以外の四人が駆け出し、すぐに前衛同士でぶつかり合うことになった。
「ガーティでも、今のドルグには剣を抜けさせられないって言ってたけど、ホントらしいなあ」
前の試合で見せたように、腕組みをしたまま中間地点で立っているドルグを見て、オズは肩をすくめるとジーノたちに指示を出す。
「援護するよ、攻撃担当は盾役の方に行って後方を叩いて。ドルグは気にしなくて良い。残り二人は俺と一緒に前衛の援護!」
「「「了解!」」」
オズは旗の周囲を結界で囲むと、ジーノたちと一緒に駆け出す。前衛近くまで上がってきたオズたちを見て、ドルグの眉がぴくりと動いた。
「穿て、氷の矢よ!」
「疾風の刃、敵を刻まん!」
攻撃担当の二人が放った魔法は、ドルグの頭上を飛び越えて後衛に届き、結界に阻まれた。応じるように攻撃魔法が飛んでくるが、すかさずオズとフィナの結界がそれを防ぐ。打ち合いのなかで肩で息をし始めた盾役には、ジーノが筋力増強の魔法をかけた。
「……ふむ」
前衛たちが疲れてきているのが目に見えて分かり始めたとき、小さく呟いてドルグが動いた。
一人が足を剣で打たれて転がったところに、潜り込む。
「へ?」
敵兵を一人倒して喜びかけていたその剣士は、目の前に現れたドルグに思わずきょとんとして、その隙に横腹を殴られて横転する。うう、とうめいたかと思うと、動かなくなった。
(ドルグが動いた!?)
一拍遅れてそのことに気付いたガーティは、さらに剣を振るう速度を速めて、目の前の敵兵を吹っ飛ばす。残り二人の前衛をソロルたちに任せて、ドルグの方へ一人向かっていった。
「ガーティか、去年の試験以来だな」
「そーだ、なっ!!」
彼が名前を覚えていたことに少し驚きつつ、勢いを殺さないまま斬りかかったガーティの全力での攻撃は、しかしあっさりとドルグに受け流されてしまう。
「君も、力は十分にある。だが、もう少し策を練る、ということを覚えるべきだ」
「っくおお!!」
一歩踏み出し、受け流された剣筋をすぐさま反転させて、下から斬りかかるガーティに、ドルグは。
「そうすれば、もっと、強くなる」
刃の鍔近くを籠手で受け止め、ガーティののど元に手刀をたたき込んだ。ガーティはむせると、ばたりと倒れ込んだ。