(41) ~ オズの準決勝【後編】
「シャーリーン様、あまり魔法を使いすぎると体によくありませんよ」
「いいえ、私はここで全力を出さねばなりません。彼に、本気でいくと伝えたのですから」
傍らで魔法の補助をしている男子生徒に注意されるも、魔法を止めようとしないシャーリーンはじっと、前衛たちがぶつかっているその向こうを見つめていた。
(この程度で落ちるとは思いませんけれど……一体何をしてくるかしら?)
「ま、敵の懐に潜り込もうって考えてたけど?」
「「「!!?」」」
心の中の声に反応されたこと、そして今ここで聞くはずの無い人物の声が聞こえたことで、シャーリーンは思わず凍り付いた。それは、他の魔法学校生も同じことで、あんぐりと口を開けて目の前に立っているオズを見つめる。
「あ、なた、今、どうやって!?」
「えー? ぱぱっと向こうから転移したんだよ。旗の周りに作った結界は他の子に任せてさ」
からからと気楽に笑って答えるオズに、シャーリーンは軽くめまいを覚えた。
転移の魔法と簡単に言ってくれるが、あれは事前に複雑な魔法陣と、それ相応の魔力を必要とする上級魔法であり、それを研究している『石暦』の魔術師が何人いるかも分からない。
(それを、こうもまああっさりと……)
ここでシャーリーンは、試合前の自分の言葉がいかにうぬぼれたものであったかを理解した。そのつもりはなかったが……まず、同じ土俵に立てていると思っていること自体、間違いだったのだ。
「……ですが、諦めるつもりはなくってよ!」
きっと瞳に強い意志を宿し、シャーリーンは魔法を一度解除すると、別の魔法を繰り出してくる。地中から現れた木の根たちに囲まれたオズは、しかし軽く指を振って対処する。ばきり、と根元から折れた魔法の根は、そのまま粒子となって消えてしまった。
「や、やれやれ!」
「シャーリーン様を援護しましょう!」
そして、最初に動いたシャーリーンに続くように、他の魔法学校生たちも魔法を放つ。氷の矢、炎の球、雷の網、風の刃……様々な魔法が飛び出し、一斉にオズに襲いかかろうとした……が。
「はい、解除」
一戦目のバルドのときと同じように、たった一言でオズはそのすべてを無にする。溶け消えた自分の魔法に、もはや立て直すことも忘れて呆然としている魔法学校生たちに苦笑を向け、最後に盛大なため息をついたシャーリーンに目を向ける。
「貴方……まるで遊んでるようですわね」
「うん、でも普段よりはちょっと本気出してるよ? シャーリーンが言ってたからさ」
「……私、今回のこと海よりも深く反省しますわ」
そんな会話をしている間に、オズは両手に一つずつ魔法陣を作り出し、ふっと息を吹きかける。怪しい紫色の光で出来た魔法陣は、薄い霧のように広がると、それに包み込まれた魔法学校生たちはばたばたと倒れていった。シャーリーンが木の葉の魔法に混ぜていた、睡眠魔法とほぼ同じものである。
後衛の異変に気付き、慌てて戻ろうとしてはガーティたちに足止めを食らっている前衛を見て、オズは眠ってしまったシャーリーンを抱き留めると、片手間で旗の周囲に張られていた結界を解除し、あっさりとそれを手にした。
グループのメンバーたちだけでなく、審判をしていた教官たちや見ていた他の生徒たちも、歓声を上げるどころか唖然とする試合内容であった。
……そんなこんなで、ほぼオズ一人の力で勝ちました。
やっとこさ決勝、オズが本当に「何でもありな野郎」だと知らしめる、オズVSドルグ戦となります。