(40) ~ オズの準決勝【前編】
向かい合い、それぞれの旗を背にして立つ訓練兵と魔法学校生たち。
互いに真剣な表情を浮かべながら、どこか、旗の側に立つグループの司令塔とも呼べる魔法学校生に気を向けていた。
オズとシャーリーンは、片や微笑みを浮かべ、片や氷のような無表情で見つめ合っている。
「両者、準備は出来たな? では始めっ!」
審判の声とともに、駆け出す前衛……その足音に紛れて。
「大いなる自然よ、私に力をお貸し下さいませ、彼の者を絡め取る、屈強な蔓草を!」
浪々と響くシャーリーンの詠唱が終わると同時に、光り輝く魔法陣が地面に現れてガーティたちを襲った。
「う、お!?」
彼らの足を、剣でもなかなか切ることの出来ないほど頑丈な蔓草が縛り上げていたのだ。なんとか飛び退いたおかげで、片足だけの被害ですんだガーティだったが、他のメンバーは両足か、そのまま転がって全身を縛られ、地面に縫い付けられているものもいる。それを好機とみて、一気に敵前衛は突っ込んできた。
「や、ばい!?」
「皆さん降参するのはまだ早いですよ!!」
と、背後からオズの声が飛んできて、蔓草の周りが陽炎に包まれる。すると、みるみるうちに蔓草は枯れ落ち、ガーティたちは自由の身になった。
「シャーリーン様の魔法が!?」
「なんだ今のは、枯れてしまったぞ!」
「余裕ぶってる暇はねえよ!!」
蔓草が無くなったことに動揺している前衛たちに、今度はガーティたちが牙をむく。
彼らが前線で打ち合いをしている間に、オズは他の魔法学校生を下がらせた。
「悪いね、ここからあっちの後衛に撃ち込むには、みんな火力がちょっと足りないし」
「そりゃそうだけど、あっちだってこの距離で、前衛でよく見えないまま魔法使うなんて」
「いやいや、ほら」
オズの後ろにいたジーノは、ひゅん、と音を立てて飛んできたそれを見て、ぽかんとする。足下に刺さったそれは、どう見ても柔らかな木の葉にしか見えず……。
「シャーリーンの力なら、余裕でこっちまで飛ばしてくるよ!」
言うと同時に、後衛全体を守るようにしてオズが結界を張ると、若草色の奔流が襲いかかってきた。
「んー、攻撃力はそこそこだけど、睡眠作用のある魔法もかかってるのかな。みんな、あの葉っぱに触るととたんに寝落ちだから、気をつけてね」
「気、気をつけてって……これどーするんですかあ!?」
結界を覆い尽くす勢いで降り注ぐ木の葉に、思わず涙目になってしまったフィナの頭を軽く撫でて、オズは一歩踏み出す。
「ま、大元叩けば万事よし。じゃあみんな、魔法陣渡すからこの結界ちゃんと守っておいてね」
「え、え?」
そう言って、手のひらの上で緩やかに回転している小さな魔法陣を地面に下ろしたオズは、ジーノたちに笑って頼み事をすると、一瞬でその場から消えてしまった。残されたジーノたちは、オズが消えたとたんに自分の体を襲った気だるさに、顔を見合わせる。
「おい、お前ら全員か?」
「……発動させた魔法、他の人に譲り渡すなんて……しかも、複数の人に……」
「「「あいつ、何でもありか」」」
思わず脱力しかけた四人は、しかし結界が揺らぐのを見て慌ててその保持のために集中するのだった。