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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
第一章『入学に至るまで』
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(04) ~ 王都へ

「うわ」


 そんなこんなで。

 周囲の奇異の視線をものともせず、たった一人でとことこ歩いてたどり着いた王都。


「でか」


 城門を見上げてつぶやく。そして、思わずきょろきょろと周りを見回した。なんとなく違和感を感じたのだが、すぐに原因は見つかった。城壁から町の内側をドーム状に覆う結界魔法である。しかし。


(でかいわりにちゃちい。何あれ、物理ならまだしも、魔法攻撃くらったら一発で吹っ飛ぶんじゃない?)


 声に出しては言わないでおく。自分の素養がちょっとぶっ飛んでるのは自覚している。

 とりあえず、商隊らしい馬車の列ができている場所を離れて、城門周りを観察していると、単身の旅人が手続きをしているらしい詰め所が見えた。他にあてもないので、そちらへ向かう。

 自分の番が来て、詰め所の管理官にじろりと睨まれた。


「おい、そのフード取ったらどうだ。というかさっさと手形を出せ」

「フードは別に取ってもいいけど、手形って?」


 知らないことは知ってる人に聞きましょう。

 『知らない』ということに対して忌避感を持たないオズは、ゆっくりとフードを取りながら管理官にそう尋ねた。

 オズの素顔に、周りの旅人や同僚ともども息をのんだ管理官は、彼の言葉を反芻して首をかしげる。


「……は? おい、手形もってねぇのか」

「うん、ていうか、何日か前にお世話になったおっちゃんにもらったお金くらいしか、持ち物ないんだよね」

「……ちょっとまて」


 管理官は頭を抱えて、何事かを手元の紙に書き殴ると、それをオズに押しつけて詰め所の扉を開いた。


「とりあえずこっちで待機してろ、今人を呼んで対処する」

「あ、はい」


 なんだろなー、とのんびり構えて待っていると、若い別の管理官を連れてきた管理官が、今まで自分がしていた業務を彼に任せ、オズと二人机をはさんで向かい合った。


「とりあえず、名前と職業、年齢や出身なんか」

「うん、名前はオズ、職業は……魔法使い? 魔術師? 年齢と出身はわからない」

「お前ふざけてんのか」

「いや、マジメマジメ」


 無表情でぱたぱたと右手を振るオズに、管理官は盛大なため息をつく。


「……荷物なしって言うのは、本当か」

「身体検査していいよ」


 言われたので、さくっと持ち物を確認する。確かに、窓口で言っていた通り幾ばくかの金銭と汚れた外套、そして今着ているものしか、オズは持っていなかった。


「ていうか、職業、魔術師? どこの魔法学校出身だ。それぐらいは……」

「え、我流だから学校とか行ってない」

「どこまで規格外だ!? ていうか卒業証明ができないうちは魔術師を職業として名乗るな!!」


 ばん、と机を叩く管理官だったが、オズ以外にも同僚や旅人の視線を受けて、顔を赤くしながら咳払いをする。


「まあ、ここ最近近くの平原を歩き続けてたんだけど、その前もどっかふらふらしてたような気がするし」

「荷物がないってことは、なんだ、盗賊にでも襲われたのか」


 言って、管理官は表情を厳しいものにする。

 男の彼から見ても、オズの顔立ちは美しいと称してしまえるほどのものだ。これほどの人間、盗賊に捕まったら何をされてもおかしくはない。


「あー……かも? あんまり覚えてないんだけど」


 管理官が嫌な想像を振り払おうと頭を振るのと同じくして、オズが曖昧な笑みを浮かべて首をかしげた。

 まあぶっちゃけ嘘であるが。そっちの方が楽そうだと判断したのだ。

 自分の名前と能力以外を忘れた、盗賊に襲われたらしい美青年。

 これでもかというぐらい怪しさ満点である。が、経歴がない自分が適当に王都に入ったところで、結局怪しまれるのがオチだろう。

 オズとの話を終えた管理官は、がりがりと紙に何かを書き殴ると、オズをその場に置いてどこかへ向かっていった。しばらく待っていると、彼は片手に手のひらサイズの金属片を持ってくると、ことりと机に置いた。


「臨時手形だ。通常手形よりずっと自由度は低いが、町の中には入れる。ま、『訳あり』の目印だな。王都じゃだいたいの店で手形の提示を求められるが、中流以上の場所はまずこれじゃ利用できない。記憶を取り戻すか、どっかで新しく自分の身元を引き受けてくれる人間を見つけるか……自称魔術師ってんなら、魔法学校に行ってみるのもありかもな」

「へー、身元のわからないヤツでも、学校受け入れてくれるの?」

「ギルドなんかとは比べものにならないほど厳しい審査があるがな。今はちょうど入学準備のシーズンだし」

「ふーん、とりあえず町に入れるならいいや。どうも」


 手形を受け取り、ポケットに滑り込ませると、オズはちらりと詰め所内の天井に描かれた小さな目のマークを見た。だが、すぐに管理官に一礼すると、詰め所を後にして町へ繰り出す。


「……えっと、あの男、確かに罪人ではなかったんですね?」

「ああ、反応は一切なし。ま、あの見た目で罪人なら一発でバレそうなもんだがな」

「ねぇ。すっごい綺麗な男でしたねー。女だったら惚れてたかもしれません」

「そういうのは思っても言うな……」


 詰め所では、そんな会話がなされたとか。

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