(36) ~ レイルの準決勝【前編】
「では、両者準備の方は」
中央の区切られたエリアの中で、それぞれのメンバーが真剣な面持ちで向き合う。
異論が無いことを確認すると、今回の審判を務めるマインダーが両手を挙げ……振り下ろした。
「始めっ!!」
とたん、動き出す前衛。剣と剣がぶつかって響く金属音に、オズはわずかに眉をひそめた。
今戦っているのは、一人の厳つい剣士が印象的なグループと、レイル、ゼルティアの所属するグループである。それぞれ駆け出し、前衛同士で戦っているのはいいのだが、一人だけ、妙に他とは違う威圧感を放っているあの剣士だけが、悠然と腕組みをしたまま棒立ちになっていた。
「あー……ドルグのヤツ、またやってら」
「知り合いですか?」
隣で観戦していたガーティが、立ちっぱなしの剣士を見て盛大なため息をつくのを聞いて、オズは尋ねてみる。すると、実に嫌そうな顔をして返答された。
「同期の中じゃ実技トップで、かつダントツの堅物って言われてる。その上ミョーにプライド高くてさ、明らかに自分より格下だって分かる相手には剣も抜かねえんだ。そばをくっついてる奴らは、才能の無いヤツ相手にしてる時間なんてないんだって言ってるけど」
「えっと、ずいぶん幅きかせている系な人……ですかね」
「あー……本人はその取り巻き、うざったがってよく叩きのめしたりしてるんだが、カリスマ? じみたものがあるせいで、顔ぶれが変わるだけで減らないんだよ」
「ふうん……ガーティさんは話したこととかあるんですか?」
「まあ、あるっちゃある。で、一応打ち合いもやったことあるんだが、まあ歯が立たなかったな……それ以来一回もやってねえし」
ガーティはそう言ったが、今あの場でも剣を抜かずにいるドルグが打ち合うことを許すほどの実力を持っているのだと言外に言われ、オズは心の中で感嘆の声を上げた。グループの中でも一番信頼を置かれているので、それなりに上位の訓練兵なのだろうとは思っていたが。
「……あ」
そうしているうちに、準備の出来た後衛組からもそれぞれ援護射撃が入り始める。一番目立つのはやはり、一番威力のあるゼルティアの炎の魔法だが、竜巻のように撃ち出されるそれを、ドルグは鮮やかにかわしていた。やや遅れて、炎に対抗するように勢いのある水球がドルグの背後から飛んでいく。
だが、前衛の頭上で魔法の撃ち合いが行われているなか、前衛組は五対四の結果、相手側二人を残して気絶するか、立ち上がることが出来ないようになっていた。味方の前衛が自分以外倒されたことを確認して、ドルグがやっと腕組みを崩す。絶好の攻撃チャンスと思われる瞬間だったが、相手グループの前衛二人はドルグを前に悔しそうな表情を浮かべていた。
「この段階でも、まだ剣を抜こうとしないからだ。けどま、あいつらドルグが求めてるレベルよりちょい下だもんな……」
ガーティが説明すると、しびれを切らした二人の剣士がドルグに向けて突っ込んだ。それぞれ左右から、微妙に時間差をつけて繰り出された一撃は……あっさりとかわされる。
「え?」
きょとんとするオズが二度、三度とまばたきをしている間に、ドルグの側では突撃した二人の剣士が倒れ込んでいた。双方とも、剣を手放して悶えている。意識までは失っていないようだが、立ち上がれそうには見えなかった。
ドルグはかがみ込んで二人を仰向けにすると、胸のメダルを取り外して地面に落とす。そのまま、前衛のいなくなった敵の陣地へと足を向ける。
「ひ、一人で来るなんてな! 吹き飛ばしてやろう!!」
悠然と旗に向かってくるドルグを見て、その迫力に気圧されたらしいゼルティアだったが、残ったメンバーの中でも誰よりも早く復活して杖を彼に向ける。素早い詠唱によって、彼の周囲に三つの熱源が現れる。
「ゆけっ!!」
杖を振ることで魔法を解放し、熱源から炎の渦が吹き出す。それらはすべてドルグに向けられたもので、その威力に魔法学校の教師の方が慌てて結界魔法を発動させようと駆け出すが、次の瞬間目をむく。