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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
第一章『入学に至るまで』
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(03) ~ 売り子体験

 がたごと。荷馬車は揺れる。

 御者には貧相でやせた男、荷台には彼が売りにいく品物と、先ほど出会ったオズという美青年。


「いやー……一瞬どんなべっぴんかと思ったぞ?」

「やだな、俺ちゃんと男だよ」

「にしちゃ、旅人特有の臭いとか空気とかもねえぞ。俺ぁいつお貴族様の兵がやってきて、とっ捕まるんじゃねーかとひやひやさ」

「うん、貴族でもないから安心してって。ほんとーにふらふらしてるだけなんだってば」

「はあー」


 御者は何度目になるかわからない、惚けたような声を出して、オズの苦笑を買っていた。

 オズとしても、自分の顔が必要以上に整っていることはわかりきったことであるから、これはどうにかしないと目立つなあぐらいに考えてはいたのだが。


「で、その合流地点ってそろそろ?」

「ん、ああ、そうだなあ……ほら、煙が上がってるのがうっすら見えるべ? ありゃ出店の煮炊きだよ」

「へぇ~」


 御者の指さす方向を見ると、確かにゆらゆらと、いくつかの煙が上っているのが見える。オズは、右手でひさしを作りながら、すっと目を細めた。その瞳孔が、人にあらざる、細長い形になる。

 遮蔽物のない平原に、ぽつぽつと黒い点のように見えていたものが、オズの視界でははっきりと簡素な木枠の出店に見えた。中には、棒に布を引っかけて日影を作り、その下に座り込んでいる人影も見える。


「なかなか賑やかそうだねえ」

「そうだなあ、いろんな村のヤツらとかが集まるからな。あ、もしなんか大切なもん持ってんなら、スリに気をつけろよ」

「了解」


 やがて、馬車は合流地点にたどり着いた。

 さまざまな身なりの人間が、あちらこちらをうろつきながら、大きな声で取引をしたりしている。半分近くは、ここを中継地点に別の場所へ向かう途中のようだが、御者は適当な空き地を選ぶと、荷馬車から絨毯を引っ張り出した。オズは察すると、彼の出店の準備を手伝う。

 御者が取り扱うのは、生薬と手作り感あふれる実用性重視の布製品だった。どれも、彼がいる村人たちが作ったものを代表して売りに来ているらしい。

 とくに急ぐ用事もないしと、商品を眺めながら売り子のまねごとを買って出たオズだったが、その影響は計り知れなかった。彼が笑って商品をすすめると、とくに女性の売り上げが跳ね上がった。というか、彼の気を惹きたくて御者の売るものを買っていくあからさまな態度の人間もいたものだ。


「……すさまじかあね」

「うん、なんていうか、自分の顔の使い方をいろいろ考えさせられるよね」


 日が落ち始めたころ、生薬は少し余ったものの、布製品はことごとく売れた御者はほくほく顔で売り上げを眺めていた。


「そだ、今手持ちあんまないんだろ? せっかく手伝ってもらったんだ、こんぐらいとっとけ」


 そう言って、御者は売り上げの四分の一をオズの手に押しつける。押しつけられた方は、慌ててそれを突っ返そうとする。


「いや、それあんただけの品物ってわけじゃねえんだろ。ていうか適当すぎるだろ」

「村長にゃちゃんと事情を伝えておく。なあに、布ものが売り切れたなんて、俺が売りに来てから初めてのこった! どうせなら半分くらいやったっていいぐらいなんだがな、残った分だけでも、普段の倍以上は稼げたからなあ」

「うーん」


 そんならまあ、とオズはもらった貨幣を握りしめる。色あせたり欠けたりしているものもあったが、この国と同盟を結んでいる国家でも流通している貨幣なので、だいたいのものはこれで買えるという。

 売り子をしている間になんとなく貨幣の価値と種類も察したので、わざわざもう一度御者に尋ねることはしなかった。


「それじゃ、俺は王都の方にでも行ってみようかな」

「へえ、じゃあなあんちゃん。もしなんかあったら、ドド村のオールを頼ってくれな。とはいっても、大したこたぁできんが……」

「いや、誰か頼れって言ってくれる人がいるだけマシだよ。じゃーね」


 そう言って、オズは御者と別れる。

 合流地点を通り過ぎる馬車の中でも、頑丈そうだったり護衛がついていたりするものが進む街道を、外套のフードを深く被りながら、のんびりとした足取りで進んでいった。

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