(28) ~ 見透かされた思惑
「ぐだぐだうるっせぇんだよ、この軟弱!!」
「うあっ!?」
最初に言い返した攻撃魔法担当の男子生徒が、勢いよく突き飛ばされた。基礎体力も違えば、受け身の取り方も知らない男子生徒はそのまま床に叩きつけられ、右腕を押さえてうずくまる。強く目を閉じて歯を食いしばるその様子に、オズ以外の慌てた他の生徒たちが駆け寄った。
「うわ、本当に弱。なんでこんなのと組む訓練までしなくちゃならねーんだよ……」
「こいつら、軍属希望じゃないのもいるんだろ? そういうのは来るんじゃねえよ、ただの足手まといじゃねえか」
「……んー、お前ら、ムカツク」
一塊になって睨み付ける魔法学校生のことなど気にも留めず、高ぶった気に任せてさんざんなことを言い続ける訓練兵たちに、ソロルが厳しい顔つきで口を開きかけたところで、静かな声が響いた。
「……はあ?」
不機嫌丸出しといった様子で振り返ったガーティの前に立っているのは、うっすらと、先ほどまで浮かべていた苦笑とは明らかに質の違う笑みを浮かべるオズだった。
「お前らが戦闘大好きの脳筋集団だってのはわかったよ、ソロルさん以外。でもさあ、わざわざ軟弱だとかお荷物だとか言ってる相手に、手ぇ出す? 手、出さなきゃ黙らせられないって結論に至るなんて、口で負けたって認めたようなもんじゃん」
「……お前、この状況ほっとんどお前のせいだってわかってんのか? お前が、俺にさんざん口答えすっからだってーの。なにが苦手なものはないだよ、初級魔法しか使ってねえくせに!」
ガーティはこれ以上無く顔をゆがめると、盛大に舌打ちをしてその場を離れた。
「おい、こんなんと一緒に訓練しても、時間の無駄だぜ。別の所行くぞ」
「……ガーティ、何にそんな苛ついてるんだ」
ソロルの声に眉をひそめたガーティが振り返ると、彼はオズの隣に立っていた。彼だけはそちらに残るのだと理解したガーティは、もう一度舌打ちをしてオズを睨む。
「そいつが気にくわないだけだ」
「そんなことが理由になるとでも?」
「……そいつの、へらへらへらへらした態度がかんに障るんだよ。丁寧なのも上っ面だ、最初っから、こっちを小馬鹿にしてやがる。そいつは俺たちと協力しようなんざ考えてねえんだよ、利用しようとしてんだ。そんなんと仲良しこよしなんかできっか」
オズは、ガーティの言葉に目を見張った。最初こそ、同じグループになるのだし協力してやっていけばいいさと思っていたが、自己紹介の後に嫌そうな顔をした彼を見て、そうそうに諦めたのだ。
それを、彼はとっくに見抜いていたらしい。
三人の訓練兵を連れて出て行ってしまったガーティに、深いため息をついたソロルだったが、腕を軽くつつかれて振り返る。すると、なにやらばつの悪そうな顔をしたオズと目が合った。
「オズくん?」
「……いやー、まあ、なんか今回もまた、俺のせいっぽいので」
すみません、と一言謝って、オズは突き飛ばされた男子生徒の元へ向かう。腕の調子を見て、簡単な治癒魔法を施してやると、男子生徒は礼を言うやいなや、勢いよく立ち上がってガーティたちを追いかけようとする。
「ちょっと、とりあえず落ち着けって」
「オズはあんなに馬鹿にされて、やり返してやろうとか思わないのか!?」
「あー……それを言うなら、多分俺が最初に馬鹿にしたかなあ」
「へ?」
きょとんとする魔法学校生たちに、オズは困ったような笑みを浮かべながら、ごめんと謝った。