(26) ~ 不穏な空気
「グループはできたな? ではそれぞれの特性をいかした戦略を立て、明日以降のトーナメントに生かせるよう訓練せよ! 今回引かせた石はトーナメント表を作るときなんかも使うから、無くすなよ。訓練する場所はこっちの新米どもに伝えてあるからな」
それだけ言うと、マインダーは壇を降りて広場から出ていった。残された他の教官や、魔法学校の教師たちが見回る中、オズは一緒になったメンバーの顔を眺めていった。と、一番年上らしい金髪の訓練兵が、場を和ませるように笑いながら自己紹介を始める。
「僕はソロル=トリスカ。一応爵位を授けられている家系だけど、商人上がりだから、平民とそんなに変わらないかな。一番得意なのは弓だよ」
頬を軽く指でかきながら言うソロルの隣で、炎のように鮮やかな朱色の髪をした、どこかバルドに雰囲気の似ている青年が続く。
「俺はガーティ、平民出身! 得意なのはとにかく剣でなぎ倒すこと! 目標は重装兵なんだよな。よろしく!」
ああ、戦闘に燃えるタチのヒトかとオズが一人納得している間に、他の兵たちや魔法学校生の紹介も終わった。構成としては、前衛の剣士が三人、盾役が一人、弓兵が一人。後衛の攻撃魔法担当が二人に、結界魔法担当が一人、身体強化などの補助魔法担当が一人という配分だった。クジで分けられたにしては、ずいぶんとバランスの良い内容である。……こっそり隣を見てみると、盾役四人に剣士が一人、攻撃魔法担当が一人でいまいち打撃にかけるメンバーが渋面を作っているのが分かった。
「おーい、お前は? 早くしろよ」
と、ぼやぼやしているとガーティが少し苛立ったようにせかしてきた。我に返ったオズは、ごめんなさいと一言謝ってから自己紹介をする。
「オズです。平民出身で、得意なもの……まあ、苦手なものがないこと?」
「は?」
オズの言葉に、ガーティが眉根を寄せる。それを見たソロルが苦笑しながら彼の肩を叩くと、ガーティは舌打ちをしてそっぽを向いてしまう。ずいぶんと短気な性格らしい。
「ええと……一応、ちゃんと答えてもらわないと、こっちも戦略が立てづらいんだけど……」
「あ、あの」
申し訳なさそうに言うソロルの横で、最近オズから勉強を教わることの多い魔法学校生の一人が、控えめに声を出した。
「オズくんも、ふざけてるわけじゃなくて……本当に、魔法なら何でもできちゃうんです。どの属性もうまく扱えるし、治癒も、結界も、補助も」
「……ひょっとして、君があの」
「ああ、魔法学校きっての問題児ってヤツ?」
「ガーティ!」
男子生徒の言葉に一瞬考え込む顔つきになったソロルは、慎重に尋ねてきた。が、その隣であっさりとガーティが、ソロルが口ごもった部分を答えてしまう。こっちにまでその評判は届いていたのかと苦笑を浮かべたオズだったが、特に否定することもせず曖昧に首をかしげておく。
「まあ、そんな風に呼ばれたことも、ありましたっけ」
「うっわ、そんなメンドクセェのと組むわけ? ただバンバン魔法が使えるだけっつってもさー、俺らの息乱されちゃかなわねぇっての」
「ガーティ、言い過ぎだ!」
さっそく嫌な空気になったグループ内で、あからさまに嫌そうな顔をする訓練兵たちと、顔を見合わせて身を寄せる魔法学校生たちに挟まれて、オズはさらに苦笑を浮かべて、思うのだった。
(うわあ、めんどくさい)