(20) ~ 本当の彼は
しっかりと午後の召喚魔法学について学んでから、オズたちは図書館へ向かっていた。『原石』の一年目であるレイルとミリアは、ときおり資料を借りるときぐらいしか訪れたことがなかったが、サボっている最中に通い詰めていたオズにとっては自身の庭のようなものだった。そんなオズでもなるべく寄りつかないようにしていた自習室に、レイルの兄、リードはいた。
「兄さん、今大丈夫?」
「レイル? 急にどうしたんだい」
リードは、レイルが大きくなって眼鏡をかけていないような姿をした青年だった。気弱、ではなく穏やかな空気をまとっており、見習い魔術師の外套に白いラインが入ったものをまとっていた。
「家で入学のお祝いしてから、あんまり会ってなかったし……あと、友達が会いたいって言ったんだ」
「僕にかい。ふふ、どうも、兄のリードです。よろしくね」
「俺はオズです。よろしくお願いします」
「同じクラスのミリアです! よろしくお願いします」
自己紹介もそこそこに、リードも息抜きがしたいからといって、場所を図書館の中央に位置する談話室へと移した。簡単にレイルと近況を報告し合ったリードは、オズに視線を定める。
「君がオズくんとはね……噂には聞いているよ」
「噂ですか」
「そう、とても優秀なのだけど、ちょっと問題も多い子だって」
「ちょっとじゃすまないと思うんですけどねー、噂の方」
おどけて見せるオズに、リードは苦笑を浮かべる。
兄の表情に感じるものがあったレイルは、静かに口を開いた。
「兄さん、オズくんのことは、噂なんかじゃわかりっこないよ」
驚いたように振り返って見つめてくる兄を見返して、さらに続ける。
「オズくんは、少し人との関わり方が分からなかっただけなんだ。そりゃ、僕らも困ったし、驚いたりしたけど、今ではちゃんとオズくんも分かってくれてる。ね? オズくん」
「え、あ、うん」
レイルの弁護に、思わずきょとんとしていたオズは、人形のように首を縦に振った。しばらくして、ぷふっと吹き出す。
「レイル、ひょっとして俺がリードさんと仲良くなれるようにって、気を遣ったの?」
「だ、だって、なんだか兄さんの目、いつもと違ったんだよ!」
なんだよう! と詰め寄っては、オズとミリアにからかわれているレイルの姿に、リードはふっと目元を和ませた。
レイルの言うとおり、彼が連れてきた友人が『あの』オズであると聞いて、弟にまで火の粉が及ぶのではと危ぶんだ心は、すっかり見通されていたらしい。楽しげにしている三人を見て、リードはにっこりと笑みを形作った。
「オズくん、ミリアさん」
「あ、はい」「はい?」
「……レイルと、これからも仲良くしてやってね。なかなか引っ込み思案なところがあるから、友達がちゃんとできるか不安だったんだけど、もうそれも心配しなくていいみたいだ」
あのレイルが、誰かのためにしっかりと自分の考えを口にするなんて、初めて見たのだから。
その言葉は、リードの心の内でのみつぶやかれた。
『上手な人付き合いは?』はこれにて終了。
オズが勝手に授業をサボって、反感を買って、ぎりぎりで気づいて元に戻るまでです。
なんとなく察していただけるかもしれませんが、オズはここしばらく人付き合い……特に学校生活のような、集団行動をしていなかったので、学校の規則(主に成績に関して)さえ守っていれば文句はないでしょ、と思っていました。
そして、レイル、ミリアのことはちゃんと大切に想ってます。バルドは、そこそこに面白いヤツと思っています。