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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
第二章『上手な人付き合いは?』
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(19) ~ レイルの兄

説明が多いです、ごめんなさい;

そしてやっと、オズに近い視点に戻ってきました。

 オズは人知れず落ち込んでいた。


(いやー……、まさか、あんなに反感を買うとは思わなかった。集団行動って久々すぎて、感覚忘れてたな)


 レイルとミリアが、オズに対して悪感情を持っていた貴族連中に絡まれたことに対して、である。

 その後、二人の弁解と魔力の解析による状況証拠がそろったことでオズの無実は証明されたが、ブリジットには厳しく叱責された。


『君は確かに、この学校で誰よりも魔術師としての素質があるでしょう。けれど、このままでいれば社会に出ることは叶わなくなるわ。あの友人たちのためにも、規律は守るべきよ』


 今回のことで、さすがに思い知った。人間というものは、外れた行動をする者を忌避する……そして、害そうとする。


(で、俺に向けられる矛先は、延長上にいたレイルたちにも向かうってわけだもんなあ)


 入学後しばらくして、授業内容に見切りをつけたオズは、早々に授業を受けることを辞めて、レイルがどうしても来てほしいと頼む授業……試験の時だけ顔を出すようにしていた。では、他の時間は何をしていたのか?

 実は、姿を変えたり転移をしたり……そんなことを繰り返して、学校の各施設や休日のみしか出られない王都の中を回っていたのだ。図書館に入り浸って、禁書のたぐいも鍵を解除して勝手に閲覧したり。羽を伸ばしたいと思って、大人の姿に戻り町の屋台料理を食べ歩いたり。このあたりの情報が欲しいと、オーデント国の情勢を探ってみたり。

 おかげで、もう記憶喪失だと言い訳をしなくてもいい程度には、この国周辺の常識などを取り入れることができたのだが、学校内での自分の評価にはまるで気を配っていなかった。単位が取れて、きちんと学年があがって卒業にこぎ着ければ十分だと思っていたからだ。

 ……はっきりいって、バルドが喧嘩を売ってきたときもちょうど他の国との関係性についてまとめていた時期だったので、ろくに話を聞いていなかった状態だったと言える。


「まさか、学校一番の問題児扱いされてたとはね」

「オズくん、それはあんまりすぎるよ……」


 食堂で一緒に食事をしていたレイルは、オズからサボり始めてから何をしていたのかを簡単に聞き(大人になって外に出ていたところは隠したまま)、盛大なため息をついた。ミリアもパンを千切りながら、頬を膨らませている。


「勝手に『貴石きせきの館』や『石暦せきれきの塔』にまで行ってるなんて! 私も行きたかったです!」

「ミリアさん、そう言っちゃうの!?」

「えー、レイルくんも行きたくないですか? 『石暦の塔』なんて、私の魔力じゃ絶対行けないですしー」


 『貴石の館』は、見習い棟の『原石の館』という通称に合わせた呼び名で、正式には上級術師棟と呼ばれる。『原石の館』で力を認められ、魔術師と名乗る資格を得た生徒が進める施設で、最短で三年、長ければ十年近くかけて移動できると言われている。

 『石暦の塔』はこれが正式名称で、弟子を取るほどの力を持った魔術師の研究棟である。『貴石の館』で魔法を学ぶ生徒たちは、必ずこの『石暦の塔』に所属する魔術師の誰かを師としなければいけない。そして、師となる魔術師にも自分の研究なりがあるので取れる弟子は限られており、ときたま『原石の館』から『貴石の館』へ移動できる実力を持っていたとしても、師がいないためにもう一年『原石』として学ばねばならない生徒が発生する。これが長期間『貴石』になれない魔術師の実体だ。

 『石暦』に所属する魔術師は、師から独り立ちと、この学校で教え導く側になることを許された魔術師である。独り立ちを許されただけでは、事務員として学校運営を手伝うか、町に出て何らかの店を開くか、国軍に属するかといった他の選択肢を選ぶことになる。大体は、あまり魔力の強くない者が事務員に、魔力の強い者が軍属に、変わり者が商店にといった傾向らしい。


「うーん、行ってみたいけど……」

「そういえばレイルの兄さんって、今どこの学年にいるのさ?」


 困り顔のレイルに、オズから助け船を出す。話題が変わったことにほっとした様子のレイルは、軽く頭をかいて言った。


「兄さんは『原石』の四年目だよ。本当は去年、『貴石』に移れるはずだったんだけど、お弟子さんがいっぱいみたいでさ」

「あ、じゃあ今年こそは、って感じかな」

「うん、今年は『貴石』から『石暦の塔』に入る人が少しいるみたいだし、独り立ちを考えられている生徒も多いんだって」

「へえ、でも『貴石』になったら、寮も移るからなあ。今のうちに会っておきたいかも、レイルの兄さん」

「え?」


 きょとんとした顔で聞き返してくるレイルの横で、ミリアが楽しそうに両手を叩いた。彼女の前にある皿は、どれもすでに空っぽだ。


「じゃあじゃあ、今日の放課後探してみるです! レイルくん、お兄さんの授業ってどんな感じだかわかりますか?」

「え、ああ、それぞれの先生がやってくれる補講……みたいなものを受けてるって聞いたけど、ほとんど自習してるみたい。図書館とかにいったら会えると思うけど」

「よし、今日の予定は決まったな」


 にやりと笑いあうオズとミリルを見て、レイルは「まったくもう」と言いながら苦笑を浮かべていた。

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