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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
第二章『上手な人付き合いは?』
19/104

(18) ~ 気づけなくて

 いつもの楽しげな笑みはその横顔に無く、ただ冷え冷えとした無表情がそこにあった。無造作に伸ばされた右腕は子息たちにむけられており、彼らの周りには、子息が発生させた炎と一緒に包み込む形で、半球状の結界が展開されていた。


「ぜ、ゼルティア様、火を消して……! あ、熱い! 熱いです!」

「か、髪が燃えるぅう!!」


 結界の中で混乱する彼らは、飛び交う炎に当てられて阿鼻叫喚の様相を呈していた。慌てて魔法を解くゼルティアだったが、取り巻きの髪や服に引火した炎までは消えない。それを見て、オズはため息を一つつくと、人差し指だけを伸ばした右手をくるりと回した。とたん、結界の中を大量の水が満たし、炎が消えたと同時に消えて、あとにはずぶ濡れの子息たちだけが残される。

 呆然としている彼らなど目もくれず、オズは振り返ってレイルとミリアの側に膝をつくと、二人の頭を撫でた。


「ごめん、俺のせいでこんな目に遭わせて」


 悲しげな笑みを浮かべて謝るオズは、ミリアの頬が赤いことに気づき、そこにそっと手を伸ばす。びくりと肩を震わせた彼女に、もう一度「ごめん」と謝ると、真っ白で柔らかな光が現れて、赤い頬に吸い込まれていった。


「……痛く、ないです」

「よかった」


 頬を触って驚いているミリアに、オズはもう一度笑顔を向ける。

 と、そこへ大人数の騒がしい足音が近づいてきた。角を曲がってきたその音の主は、『原石の館』での授業を担当している教師陣に、総合管理を任されている事務員数名だった。彼らは結界に閉じ込められている子息たちに驚き、次いで、オズに目を向ける。


「この結界は、貴方がやったのね? オズ」

「そうですね」

「今すぐ解きなさい!」

「はいはーい」


 まなじりを吊り上げているのは、『原石の館』の筆頭魔術師であるブリジットだった。腰ほどまである深紅の髪を振り乱し、なんてこと、とつぶやいている。

 結局、子息たちは医療棟へ、オズはブリジットたち上位魔術師に連れて行かれ、レイルとミリアはクラス担任である魔術師ジェイノスに預けられた。ジェイノスは普段から絶やすことの無い穏やかな笑みに、困惑の色を多く含ませて、二人に事情を尋ねてきた。オズの連行される様を見ていたミリアは、オズは悪くないと泣きじゃくるばかりだったので、ほとんどはレイルが見ていたことを話すことになった。

 しばらくして、現場を調査した事務員がゼルティアの火の魔法の残滓、そしてオズの結界魔法と水の魔法の残滓を見つけ、子息側の言い分がばらばらであることも考え、五人の子息には重い罰則を、オズには無断での魔法使用に関するいつもの罰則を言い渡した。

 この事件があってから、罰則を終えて学校に復帰したオズは、入学当初と同じように授業に出るようになった。

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