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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
第二章『上手な人付き合いは?』
16/104

(15) ~ 一番の問題児

この章は短めです。レイルの視点がほとんどになります。

 夏場は脱ぎ捨てたいとばかり思っていた、分厚い見習い魔術師用の外套をぴったりと体に巻き付けて、レイルは冷や汗を浮かべながら庭を横切る回廊を走っていた。時折立ち止まっては、懐中時計を見て小さく唸る。


「ど、どうしよう……もうすぐ授業、始まっちゃう……!」


 あー、うー、とその場で頭を抱えていたレイルだったが、とうとう諦めた表情を浮かべて目的の場所へ走り始めた。

 途中で回廊を逸れて、中庭を通り、花壇が並んでいる先の温室を通り過ぎると、学校の人間でもあまり立ち寄らない校舎裏へたどり着いた。人の目が完全に無くなったところで、レイルは静かに息を整えると辺りを見回しながら歩き出した。


「えっと、オズくん、オズくん、どこにいるの?」

「……レイルかあ」


 返事は、案外早く返された。慌てて声の聞こえてきた方を振り返ると、太い木の枝に寝そべって、片手をぶらりと下げているオズと視線が合った。


「オズくん! 今度の薬草学、調合試験があるからサボったらダメだよって言ったじゃない!」

「ええ……だって、今まで作った薬のどれかを、もう一度作れっていうんだろ? 二度手間じゃないか」

「レシピなしで、ごちゃまぜの材料の中から正しい薬草を選ぶところから始まるんだよ。大変に決まってるよ!」


 言いながら、レイルは「でもオズはきっと、どの薬でも完璧に作るんだろうな」と思っていた。

 今年度の入学試験で、筆記と実技の成績において、どの貴族とも完全な差をつけて主席をとったと教師陣で噂されている天才。それがオズだった。試験当日に知り合って、合格後に同じクラスの生徒になったこともあってオズと一緒に行動を続けているレイルだが、最近では彼の問題行動の尻ぬぐい係となってしまっている。

 はじめはよかったのだ。合格、不合格以外の生徒の詳しい成績を外部へ発表しない学校側の措置のおかげで、オズは実技試験で目立ってこそいたが、その後は波風立たさぬように行動をしていたのでしばらくすると貴族組の個性の前に埋もれた。

 だが、正式に魔法学校の生徒になり、それぞれの授業を受け始めてから一月後……オズは、だんだんと授業に顔を出さなくなってきた。レイルがオズに聞いたところによると、「どの授業も、九割五分は教科書の内容読み上げてるだけなんだもん。俺、もう読み切っちゃったからさ。実技もティストンさんから習った以上のところまで、まだ全然いきそうにないし」といった解答が返された。一言で言うと、つまらない、と。

 このときの会話がどこから漏れたのかは分からないが、学校側は創設以来の天才と言っていた彼を、創設以来の問題児と言い換えはじめ、そこでうっかり教師たちが言っていた「あれで入学試験主席合格だと……」という話を生徒が聞いてしまい、オズは貴族からも平民からも「鼻持ちならないヤツ」というレッテルを貼られてしまった。

 そんなオズと、いまだにレイルが行動をともにしようとするわけとは……単純に、オズのどこかひょうひょうとしている人柄に惹かれているからなのだ。


「それと、ウィスパー先生から伝言だよ。『調合試験に出なければ、単位はあげません』って」

「……お、それってとうとう、あの先生も折れたってことだね? よし、じゃあ行くよ」


 ため息をついてレイルがそう言うと、オズは酷く楽しそうな笑みを浮かべて木から飛び降りた。彼の返事を聞いて、レイルはがくりと肩を落とす。先生が折れたということは、オズにとっての勝利を意味していた。この場合、伝言の意味を逆に考えると『試験に出れば、単位をやる』ということになる。

 ……オズはすでにこうやって、三つの授業で早々に単位をもぎ取っていた。そこに不正という文字がちらつくことは無く、教師たちも本当に彼が優秀なのだと理解しているから、強く出られない。


「よーし、授業ってあとどれぐらいで始まる?」

「もうとっくに始まってるよ……多分、最初の班が調合している頃じゃ無いかな」


 僕とオズは、三番目の班だよとレイルが答えると、オズは一つ頷いてレイルの右手をとった。

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