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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
第一章『入学に至るまで』
13/104

(13) ~ 実技試験【後編】

「……すごい」


 レイルも言葉が出ないらしい。壇上を降りていく彼女に向けて、周りとともに小さな拍手を送るのが精一杯のようだった。


「植物操作って、中級だっけ?」

「うん、基礎魔法と組み合わせた魔法だね。すごいなあ、ほんとに」


 彼女とともに壇上に上がっていた面々も、すっかり植物操作の魔法に見ほれていたため、全員魔法に成功したにもかかわらず、その場はシャーリーンの独壇場といえた。

 それからしばらくして、平民達の若干つたない実技が始まる。中には、緊張のあまりうまく魔法が出せず、不合格になってしまうものもちらほらいた。貴族にくらべて、大衆にさらされるといった視線の力に慣れていない平民は、集中力を乱されて手順を間違えてしまう。

 そして、貴族の子息達が平民達の実技に飽きてきた空気を出し始めた頃、オズとレイルたちの番がやってきた。そこからは互いに言葉を交わさず、視線だけを合わせる。目を見開き、少し震えているレイルに対して、オズは軽くウインクして見せた。すると、きょとんとしたレイルは一拍のち、静かに吹き出す。


「では、はじめ」


 試験官の声を聞き、レイルはゆっくりと呼吸を整えると、今日この日まで一生懸命、兄の力を借りながら練習してきた魔法をイメージした。手元に明かりがともり、魔力が高まったところで、空中にその手を滑らせる。手にした光の軌道がそのまま宙に残り、綺麗な四角形を作ったところで、レイルの魔法は終了した。地味ではあるが、ただ明かりを出すよりははるかに精度が高い。無事に結果を残せたことがうれしくて、レイルは思わずその場でガッツポーズをしてしまった。

 と、そこで。


「……26、まだですか?」


 え、とレイルが隣を見ると、オズは薄く笑みを浮かべたまま、周りの受験生の魔法をただ見ているだけだった。試験官は眉を潜めると、不合格の鐘を鳴らそうとし。


「少しゆっくりしていただけです。すぐやりますよ」


 ようやっと、口を開いたオズは、真っ正面に右手を伸ばすと、小さな光球を生み出した。さんざん待たせておいて光球一つしか出さないオズに、教師陣もあっけにとられるやら、不愉快そうに眉を潜めるやら。

 だが、オズの笑みはさらに深まる。


「それっ」


 手のひらを返し、指を鳴らした瞬間に光球がはじけ、何十個もの光の粒になる。そして左手を頭上にかざし小さな水の渦を作り出すと、散らせた光の粒をまとわせた。それをそのまま、ぐるりと自身の周囲に巡らせて輝く水のリングを作り出す。そこで、教師の一部は気がついた。基礎魔法と水の魔法を使った演出にも思えるが、あのリングは結界魔法でもあると。


「おしまい」


 最後にオズが気をつけの姿勢でつぶやくと、水のリングは空中に霧散して消えてしまった。すぐ隣でオズの魔法を見たレイルは、ただ言葉もなく立ち尽くす。

 ……この日、中規模の魔法を無詠唱で行ったのは、貴族平民をあわせてもオズただ一人であった。

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